名シンガー・松本伊代の最高傑作！

　空前のシティポップブームを背景に、2021年6月にスタートしたビクターの「＜マスターピース・コレクション＞シティポップ名作選」シリーズ。
　第1期17タイトル（ こちらで紹介）、第2期17タイトル（ こちらで紹介）などがリリースされておりますが、その女性ボーカル編という位置づけで昨年8月にリリースされたのがUHQCDによる「マスターピース・コレクション～フィーメル・シティポップ名作選」10タイトル（ こちらで紹介）。
 
　ビクターの豊富なカタログの中から、女性アイドル＆女優のシティポップ色の濃い作品をセレクトするという展開でしたが、1年ぶりに第2弾が発売されます！
 
　ラインアップは遠藤京子(遠藤響子)「 夢見るスター +3 」、荻野目洋子「 ヴァージ・オブ・ラブ +1」、多岐川裕美「 酸っぱい経験」、宮崎美子「 わたしの気分はサングリア +2」、岡安由美子「 夢への接続詞」、障子久美「 MOTION&MOMENT 」、阿川泰子「 Echoes +2」、松本伊代「 風のように +2」、美保純「 プライベート・シアター +3 」、秋本奈緒美「 POISON21 +1」、キララとウララ「 ダブル・ファンタジー +9」、MINAKO OBATA「 トゥルー・ピース・オブ・マインド +1」、工藤夕貴「 サープライズ」という13タイトル。
　現在、入手不可能な作品を中心にセレクトされたとあって、レアなタイトルも含まれておりますが、ここではやっぱり伊代ちゃんきっての名盤「 風のように +2」を推しておきましょう！
 
　オリジナルリリースは87年につき、当時からCDでも発売。復刻盤としては2009年にボックス「スイート16」（ こちらで紹介）と単品で紙ジャケ化された後、19年にはタワレコ限定で再プレス（ こちらで紹介）と、潤沢に流通されてきましたが、もう完売になっているようですし、今回は最新リマスタリングで最新ライナーノーツ封入となっていますので、まだお持ちでない方はぜひこの機会に入手いただきたいと思います。
 
　シンガーとしての伊代ちゃんといえば、デビュー時の筒美京平作品から転機となった尾崎亜美作品など常に楽曲に恵まれておりますし、パブリックイメージとは裏腹、今日まで歌にはずっと真摯に取り組んできています。それは2021年に出した筒美作品集の最新アルバム「トレジャー・ヴォイス [40th Anniversary Song Book] ～Dedicated to Kyohei Tsutsumi」（ こちらで紹介） でも分かることでしょう。
 
　さて、今回復刻されるアルバム「 風のように +2」のベースにあるのは、「信じかたを教えて」「サヨナラは私のために」「思い出をきれいにしないで」というサヨナラ三部作。
　女子大生からOLへ、ユーミンソングを意識した等身大路線というか、ユーミンを好んで聴く同世代女性をターゲットにした作風へとシフトし、伊代ちゃんがオトナのボーカリストとして評価されていった時期の集大成にして、シンガー・松本伊代の開眼作なのです。
 
　三部作を中心に、ほぼ全曲を川村真澄＋林哲司＋船山基紀のトリオが担当。　
　シティポップの代名詞、林さんが大活躍というだけことでも再評価されそうですが、特筆すべきは川村さんの詩世界でしょう。バブルの上り調子という時代の陰影とトレンディになりきれないリアルな恋愛観が、伊代ちゃんのキャラクターにピッタリハマっっていて、どこか神がかっているよう。
 
　当時の最新シングルにして洗練されたアーバンポップ「すてきなジェラシー」（コレのみ岸正之作曲）、エバーグリーンな甘酸っぱさが漂う「星をまねて」、本人お気に入りでシングルリリースのブランクがあった時にテレビでもよく歌っていた「硝子のカラス」、今は亡きC-C-Bの渡辺英樹さんとのデュエット「カレードスコープ」などなど、トリオの手腕がいかんなく発揮された切ない名曲ぞろい。
　そして何より素晴らしいのが伊代ちゃんのボーカル。筒美先生が愛してやまない天性の声質を持つ伊代ちゃんですが、このアルバムではシンガーであることに徹し、努力で磨きをかけた成果がしっかりと表れております。
 
　発声から感情の込め方に至るまで細かく気を配っているのが分かりますし、地声とファルセットの境界を行き交う巧みなテクニックにも脱帽です。
　オリカラ満載だった紙ジャケに比べ、ボートラは少なくなっておりますが、クセになる魅力がいっぱい、まさに80年代後半のシティポップアルバムですぞ。　
 
　なお、このシリーズの第1弾では、次作「 Private File +4」がラインアップに入っていますので、未入手の方はぜひ併せてお求めください。
　こちらは、引き続きの等身大女性路線ではありますが、世はバブルの絶頂期だけに、詩世界はより華やかなクール＆スタイリッシュに進化。
　作家陣もより豪華にバラエティーに富んでいて、ピチカート・ファイヴの小西さんやシュガーベイブの村松さんに加え、ブレイク前のKANや崎谷健次郎といったニューフェイスも参加。麗美やチェッカーズのモクなどもいい曲を書いています。
　当時の最新シングルは、大江千里クン書き下ろしのシングル「ソナチネ」でしたが、オススメは「ソナチネ」がクリスマスソングだったため両A面扱いとなり、年明けからはテレビでも歌っていた「泣かないでギャツビー」。アルバムは別バージョンなのですが、オリジナルバージョンもボートラ収録。また、井上ヨシマサ作曲のシングル「淋しさならひとつ」のB面でこれまたTVでもよく歌っていた名曲「男には向かない職業」もボートラ収録されていますので、ぜひ「風のように」とセットでお聴きください。