森山良子らを育てた名プロデューサーの作品集！

　アナログレコードの時代から、作詞家、作曲家といった作家陣の作品集は専属契約制だったこともあってかよく企画されてきましたが、レコード会社の垣根はフリー時代となってからも非常に高かったせいで、オリジナル音源を集約することは至難のワザでした。
　それが筒美京平先生の25周年記念BOX「筒美京平 HITSTORY Ultimate Collection」から超えられるようになり、作家別コンピレーションアルバムも活況を呈し、作品集としての精度も充実。
　近年は昭和歌謡やシティポップスのブームなどを追い風に、編曲家やスタジオミュージシャン、エンジニアといった裏方にもスポットライトが当たるようになり、かなりコアなCDｰBOXやアンソロジーがリリースされているのは記憶に新しいところです。
 
　昭和の名曲の数々が若者世代にも親しまれている今、テレビ番組や書籍などでも、楽曲が生まれた背景や過程がよりマニアックにクローズアップされるようになっておりますが、当時、ヒット曲の中心で采配を振るっていたのは、作家ではなくレコード会社や原盤制作会社のディレクターやプロデューサー。
　メジャーなレコード会社からでなければヒットを生み出すことが出来なかった時代、彼らの手腕が大いにものを言ったワケですが、昔からメディアでおなじみだったソニーの酒井政利さんや、歌手から転向したビクターの飯田久彦さんら、ごく一部の花形ディレクター以外は、当時は裏方に徹していたんですよね。
 
　そんなディレクターたちの裏話をまとめたのが、ご存じ濱口英樹さんが2018年に上梓された「 ヒットソングを創った男たち 歌謡曲黄金時代の仕掛人」です。
　東芝草創期の草野浩二さんからソニーの80年代を支えた吉田格さんまで、14人のプロデューサー＆ディレクターに取材を敢行。初めて語られる秘話も満載で大きな話題を呼びましたが、濱口さんは、これを発展させたような形で、昨秋に草野浩二さんの語り下ろしの書籍「 見上げてごらん夜の星を 音楽プロデューサー草野浩二伝」を構成するとともに、作品集のCD「 草野浩二作品集 ～昭和歌謡ヒット列伝～」を監修。
　ついに音盤としてのアンソロジーもお目見えしましたが、その続編といえる形で、フィリップスレコードの名プロデューサーだった本城和治（まさはる）さんにスポットを当てた書籍「 また逢う日まで 音楽プロデューサー本城和治の仕事録」と同名の作品集CD「 また逢う日まで～音楽プロデューサー本城和治の仕事録」が登場するそうです！
 
　日本のフィリップスレコードは、日本ビクター内の1レーベルからスタートし、70年に新設会社・日本フォノグラムのメインレーベルとなりましたが、本城さんは60年代から所属し、最初は洋楽担当が振り出しだったそうです。
　邦楽に移っても従来の歌謡曲やカバーポップスではなく、日本独自のポップスを追求しようという姿勢を貫き、GSからフォーク、ジャズ、ロック、ポップスまで、錚々たるアーティストを発掘・育成なさってこられました。
　最大のヒット曲は今回のタイトルにも引用されたように、71年のレコード大賞と歌謡大賞をダブル受賞した尾崎紀世彦さんの「また逢う日まで」（阿久悠＋筒美京平コンビ）だと思いますが、この歌1曲をとってもリメイクながら、それまでにはない男女関係を描いた阿久さんの歌詞、筒美先生の斬新なメロディーとサウンド、そして日本人離れしたキーヨの歌唱と、三拍子そろったエポックメイキングな名曲ですよね。
 
　ちなみに、本城さんが60年代後半から80年代にかけて手がけたアーティストは実に多彩。ザ・スパイダース、ザ・ジャガーズ、ザ・テンプターズなどのGSや、ザ・サベージ、ザ・ブロードサイドフォーといったカレッジフォークから、ソロとなったマイク真木さん、かまやつさんや井上順ちゃん、シティポップとして再評価の進む石川セリさんや大橋純子さんまで数多に及びますが、本城さんといえば、やっぱり森山良子さんでしょうか。
　デビューを渋っていたという良子さんをアマチュアからプロへと導き、フォークにこだわらずあらゆるジャンルを歌いこなすボーカリストへと成長させたのは、まさしく本城さんの功績。良子さんもそうですが、デビューの段階でシングルとアルバムを同時発売させる手法に色濃く表れていますが、これが後の音楽シーンに大きな影響を与えたことは疑う余地のない事実でしょう。
　ヒットを狙ったシングル至上主義でLPといえば寄せ集め感のあった当時の日本で、洋楽のようにアーティストの音楽性を重視しアルバムに力を入れるアーティストを育成しようとした本城さんの志向。良子さんの膨大なアルバム群を聴けば、その思いが伝わってきますし、手がけた面々を見れば、アルバム制作に定評のあるアーティストばかりなんですよね。
 
　また、樋口康雄(PICO)さんや長谷川きよしさんといった、これまでにない新しい才能を発掘したことでも知られる本城さん。つのだ☆ひろや網倉一也はシンガー･ソングライターとしてはそこまで成功しなかったものの、大ヒットメーカーとなったワケですし、その審美眼には定評がありますが、実はかのユーミンも本城さんが最初だったとか。
　ユーミンの作家第1号作品である加橋かつみの「愛は突然に」のディレクターであったことから、ユーミンとアルファの村井邦彦さんをつないだそうですが、本城さんはデモテープでの独特の声質をのユーミンを面白がって歌手としてデビューさせたかったんだとか。結局は作家志望だったユーミンが断ったそうですが、そんな逸話がいくつもあるほど。
　ほかにも、この時代の日本人アーティストの海外レコーディングの先駆者としても知られ、69年の段階で“フィリップスワールド・レコーディング・シリーズ”と題した三部作（「森山良子イン・ナッシュビル」「ザ・テンプターズ・イン・メンフィス」「加橋かつみ   パリ1969」)を手がけたり、実績を少しひもとくだけでもまさにレジェンドといえる存在です。
 
　今回は、「ノー・ノー・ボーイ」「バン・バン・バン」「夕陽が泣いている」「あの時君は若かった」「君に会いたい」「神様お願い!」「エメラルドの伝説」「いつまでもいつまでも」「若者たち～空にまた陽が昇るとき」「小さなスナック」「どうにかなるさ」「雨あがりのサンバ」「さとうきび畑」「恋人」「この広い野原いっぱい」「バラが咲いた」「あなたのすべてを」「別れのサンバ」「また逢う日まで」「さよならをもう一度」「昨日・今日・明日」「お世話になりました」「メリー・ジェーン」「I LOVE YOU～Single Version」「ひとり芝居」「ダンスはうまく踊れない」「シンプル・ラブ」「たそがれマイ・ラブ」「恋はマジック」「Good-Bye 横須賀」など、本城さんの代表曲を厳選した全43曲が収録されるそうですが、濱口さんが新しく書き下ろしたという解説も楽しみ。
　
　濱口さんのお仕事では、明菜の島田雄三さんによる著書「 オマージュ＜賛歌＞to 中森明菜」とCD「 Singles～1981-85 中森明菜 11 Great Hit Singles+6 by Yuzo Shimada」（ こちらで紹介）もありますが、今後も各社を巻き込んでシリーズ化し、どんどん続編やスピンオフ的な作品集が出ることに期待したいものです。