ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#1056
鈴木蘭々/All Time Best~Yesterday&Today~
(2023.7.26発売、MHCL-3039、¥3,300<税込>)

未発表の筒美京平作品の新録を含む初ベスト!

 90年代半ばにCMの女王と呼ばれ、マルチな活躍をしていた鈴木蘭々さんも、今年でデビュー35周年目に突入。
 かつて共演した萬田久子さんから「あなた、ルーマニア人?」と聞かれたエピソードが物語るように、まさにルーマニアの白い妖精、ナディア・コマネチを彷彿とさせるエキゾチックな美少女でしたよね。
 それなのに元気でノリノリのキャラクターを前面に出し、同時代の篠原ともえや千秋らと同じ不思議系おしゃれバラドルといいますか、ユニークな活動で時代の寵児となったのはご存じの通り。
 レギュラーを務めたフジテレビの「ポンキッキーズ」では、安室奈美恵とのユニット・シスターラビッツでも人気を博しましたし、ファッション性も高く、女子中高生の間ではカリスマ的存在の一面もありました。
 
 そんな彼女が最もやりたかったというのが音楽だったそうで、バラドルの余技ではなく、本格的な歌手としてデビューを果たしたのは95年。レーベルは、ソニーミュージックの新レーベルで、大瀧詠一御大が設立時から関わったOo Records(ダブル・オーレコード)。新人アーティスト第1号として、デビュー日はダブル・オーが重なる8月8日という念の入れようでした。
 デビューにあたっては、なんと筒美京平先生がプロデュース。ファーストアルバムはカバーも含め全曲筒美作品と、90年代では希有な筒美系ディーバの1人となるのです。
 
 歌手活動は長いブランクがあったようですが、30周年時の2018年から再開。ライブ「Singer-Song Lan Lan」をシリーズ化しつつ新曲もコンスタントに発表するなど現役としても頑張る一方、昨年、オーダーメイド・ヴァイナルでは名曲の誉れが高いEPO作品「 キミとボク icon」の7inchアナログ化が実現。
 再評価も高まっている気がしますが、このたび自身の監修による初のオールタイムベストアルバム「 鈴木蘭々 All Time Best~Yesterday&Today~」をリリースすることと相成りました!
 
 ちなみに、Oo Recordsでは98年まで在籍し、シングルは筒美作品のデビュー曲「泣かないぞェ」から「キミとボク」までの8枚、アルバムは全曲筒美作品の「Bottomless Witch」とハイセンスにR&B色を打ち出した「One and Only」の2枚をリリース。
 その後、2001年にavexからLAN LAN名義でドラマ主題歌「Be With You」を発売。復活後も配信のみでシングルを数曲発表しています。
 
 今回の初ベストは、オリコン最高29位をマークしたデビュー曲「泣かないぞェ」から始まるキャリアが網羅されるそうで、Oo Records時代の音源のみならず、配信作品の初CD化に加え、デビュー前のプロモーション用音源、さらには、なんと筒美先生が遺した未発表曲を含む新曲を3曲も収録と、ベストの範疇を超え充実した内容になる模様。
 蘭々の場合、ソロデビューの前にTOo's(トゥーズ)というユニットで発表したアニメ「魔法陣グルグル」の主題歌「MAGIC OF LOVE」がスマッシュヒットした実績も持っていますし、「ポンキッキーズ」での安室奈美恵とのユニット・シスターラビッツとしての企画盤や、レーベルメイトだった渡辺満里奈とのコラボヒットもありますので、そのへんも対象になるでしょうか。
 Oo Recordsのエグゼクティブ・プロデューサーは、かの川原伸司さん。平井夏美名義でシングル「… of you」を作曲したほか、復帰後も楽曲提供を行っています。
 
 なお、今回は販売施策も充実。ショップによって異なる予約特典も用意されていて、お膝元の Sony Music Shop iconではスマホサイズステッカー、 楽天ブックスではオリジナルアクリルキーホルダー、 セブンネットショッピングではオリジナルスマホスタンド、 Amazonではメガジャケがもらえるそうですので、予約の際は特典の吟味もお忘れなく。

 収録曲はまだ発表されていませんが、せっかくの機会ですので、鈴木蘭々×筒美京平作品について触れておきましょう。
 蘭々が歌手デビューした90年代半ばは、フィリーソウルやディスコなどのリバイバルをはじめ、ソフトロックの発掘など、世界的に70年代の音楽がトレンドのルーツミュージックとして注目を浴びた時代。日本では筒美京平作品にもスポットが当たり、筒美フリークとして知られたピチカート・ファイヴを中心とした渋谷系アーティストからの再評価を筆頭に、小沢健二=筒美京平ソング・ブック「強い気持ち・強い愛/それはちょっと」のヒットなどで、若い世代からのリスペクトが高まっていました。
 
 とはいってもナツメロ的な扱いではなく、現役のヒットメーカーだったことが筒美先生の凄さ。ヒットしなければ意味がないというポリシーを貫徹。NOKKOの「人魚」や藤井フミヤの「タイムマシーン」など、ベテラン勢にトップ10ヒットを与えたり、得意とするアイドルの分野でも内田有紀のデビュー曲「TENCAを取ろう! -内田の野望-」を手がけオリコン1位を獲得するなど、見事な結果を打ち出していたのでした。
 
 であるからして、蘭々プロジェクトは筒美先生がヒット最前線で腕をふるった展開であり、一連の提供作、シングル「泣かないぞェ/叱られたくて」と「なんで なんで ナンデ?/可愛い嘘」、そしてアルバム「Bottomless Witch」は、とにかくキャッチーでハイクオリティ。
 「泣かないぞェ」では、蘭々の詞に筒美先生が曲をつける際、先生自ら「ェ」をプラスしたというエピソードが残っていますが(ネット用語を予言していたかのよう…)、蘭々の声質とハリのあるボーカルはいかにも筒美先生好みで、かなり乗っていたのが分かります。
 アレンジャーも先生のポリシーが貫かれ、全幅の信頼でストリングスアレンジを任された萩田光雄さん以外は、松本晃彦、田辺恵二、朝本浩史、藤井丈二ら若手の諸氏が担当。弘田三枝子の「可愛い嘘」「渚のうわさ」、郷ひろみの「花とみつばち」、浅野ゆう子盤が最もヒットした「ハッスル・ジェット」といったカバー曲も含め、90年代当時の最新サウンドを展開していますが、秀逸なのは蘭々のボーカル。天性のグルーブ感に、筒美先生が大いに創造力をかき立てられたことは想像に難くありません。
 
 未聴の方は、今回のベストを機に、アルバム「Bottomless Witch」、シングルリリースのみの「叱られたくて」「可愛い嘘」へと進んでいただければと思います。
 なんたって90年代の筒美先生がアルバムまでを一手に引き受けたレアケースなんですから。そして、立ち位置やアプローチなども含め、当時の筒美作品では蘭々と対になっていた感のある櫻田宗久クンへの提供作の再評価が進むことも願っています。
 
 

(2023.5.31)
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