ユーミン作詞の名曲がヴァイナル復刻！

　1969年、作曲家の村井邦彦さん（作品集は こちらで紹介）が、作詩家の山上路夫さん（作品集は こちらで紹介）とともに設立した音楽出版社・アルファミュージック。そこから制作部門を独立させたアルファ・アンド・アソシエイツ、そしてレコード会社として立ち上げられたアルファレコード…。
　赤い鳥、ガロ、荒井由実、ハイ・ファイ・セット、サーカス、YMOなどなど、アルファから数多の優れたアーティストが世に送り出されてきたことは今さら言うまでもないでしょう。
 
　2000年代に入ってからアルファの音源はソニーが管理受託。以来、数多くの復刻盤や企画盤がリリースされ、村井さんが古希を迎えた15年にはユーミンをはじめゆかりのアーティストたちが集合したお祝いイベント（ライブ盤＆ブルーレイは こちらで紹介）が開催されるとともに、社史を振り返るようなコンピ盤（ こちらで紹介）も登場。
　さらに、創立50年を迎えた19年にはソニー・ミュージックパブリッシングの子会社として再出発。世界的な日本のシティポップスブームにおいても再評価が高まっております。
 
　そして今年、 55周年を迎えたのを機にレコードレーベルとして再始動することになったそうで、ヴァイナルを中心にさまざまな企画が目白押し。
　皮切りとして、ガロの渋谷パルコオープン記念プロモシングルを正規商品として復刻した7インチヴァイナル「 公園通り」などが来月リリース。
　5月にはガロのボーカル（大野真澄さん）セレクトによるベストCD「 シングルズ&オリジンズ」も出るようですが、注目したいのは6月にリリースが決定したハイ・ファイ・セットの7インチヴァイナル・シングル「 スカイレストラン＜完全生産限定盤/クリア・ライトブルー盤＞」！ クリア・ライトブルーのカラーレコードで登場です。
 
　細野晴臣さんが命名したというハイ・ファイ・セットは、伝説のグループ・赤い鳥から分離独立したコーラストリオで、ソプラノの山本潤子さん、テナーの山本俊彦さん、バスの大川茂さんで結成。75年にレコードデビューすると、それまでの日本になかったファッショナブルなコーラスワークで、当時のフォーク・ニューミュージックよりもさらに洗練されたシティポップをいち早く展開したグループとして人気を博しました。
 
　75年のデビュー曲がレベールメイトだったユーミンの提供作「卒業写真」だったことでも分かるように、ユーミン作品を多く取り上げたことでも知られますが、今回ヴァイナル化される「スカイレストラン／土曜の夜は羽田に来るの」も、2曲ともユーミンが作詞。作曲を村井さん、編曲を松任谷正隆さんが担当しています。
 
　アダルトでアーバンムードあふれる「スカイレストラン」の歌詞は、そもそもユーミンがドラマ主題歌のために作った「あの日にかえりたい」の原詩。ドラマの内容に合わないということでボツになったそうですが、これに村井さんが曲をつけたもので、イントロに潤子さんのスキャットが流れるという意味でも「あの日に～」と姉妹曲といえるナンバー。
　「あの日に～」がリリースされた１カ月後の75年11月にハイ・ファイ・セット4枚目のシングルとして発売。当時はさほどヒットしませんでしたが、ロングセラーとなったので知名度は高いと思います。
　むろん名曲の誉れは高く、カバーが多いのも特筆すべきことで、潤子さんがソロでセルフカバーしているほか、桃井かおり、伊東ゆかり、岩崎良美といった実力派から、日野美歌やクレイジーケンバンドまで、多くのアーティストに歌い継がれております。
　シティポップの流れでは、清野由美が81年にカバーしたバージョンが再評価されており、22年に7インチヴァイナル化（ MEG−CDでも発売）済みですが、海外ではよくサンプリングされるなど、人気が高まっているのだそうです。
 
　カップリングの「土曜の夜は羽田に来るの」はメロウグルーヴの極致といえる名曲で、和モノやシティポップで再評価されておりますが、昔からファン人気が高かった1曲。
　美麗なストリングスをフィーチャーして洗練されたサウンドと、スタイリスティックスばりのソウルフルなコーラスワークはまさに快感もので、日本で彼らの右に出る者は今もいいないでしょう。
　詞と曲の融合によるドラマチックな世界観にうっとりしますが、オリジナルは、まだ成田空港がなかった頃の国際線のイメージ。しかし時代は巡り、今は羽田第3ターミナルが舞台でも成立するようになっております。
 
　という２曲ですが、ヴァイナルだと本当に高いので、音源をパッケージとして持ちたいという方にはやっぱりCDがオススメ。
　超ベストセラーということでいえばワンダフルムーンマイナス１のユーミンと杉真理さん作品集という2枚組「 GOLDEN☆BEST ハイ･ファイ･セット 荒井由実･松任谷由実･杉 真理 作品集」がイチバンですが、ハイ・ファイ・セットは、74年の結成から92年に活動を停止し94年9月に解散するまで、20年ものキャリアを持つグループ。レコード会社もアルファ（レコードは東芝EMIから発売、アルファの全音源をまとめた「アルファミュージック編 1975～1978」は こちらで紹介）、東芝EMI、そしてCBS・ソニーへと移籍し、それぞれの時代でカラーが異なりますので、全集ものでその軌跡をきっちり追うのがいいでしょう。
 
　レーベルの垣根を超えたG☆BのシングルA面コンプ（ こちらで紹介）もありますが、2006年のリリース以来ロングセラーとなっている通販限定の4枚組「 ハイ・ファイ・セット GIFT BOX」（解説を担当させていただいております）なら、27枚の全シングルAB面とアルバムからの名曲、企画盤にのみ収録された貴重音源までを網羅していますぞ。
　山本潤子さんの軌跡という意味では、赤い鳥時代からハイ・ファイ・セット、ソロの人気曲を集めた5枚組BOX「Junko Yamamoto ALL TIME SONGS」（ こちらで紹介、解説を担当させていただいております）も必携です。
 
　いや、今回の２曲が入っている１枚物の手軽なベストでいいとおっしゃる方には、かのムジカインドウが制作した「 ハイ・ファイ・セット／スーパーヒット・セレクション18」（解説を担当させていただいております）もありますよ！
 
　オリアルもアルファ時代の名盤復刻シリーズ（ こちらで紹介）やLA録音盤「THE DIARY」のSACDハイブリッド（ こちらで紹介）、東芝時代のLight Mellow 和モノシリーズ3タイトル（ こちらで紹介）、CITY POP Selections 3タイトル（ こちらで紹介）、ソニー時代の5タイトル（ こちらで紹介）など、多数復刻されていますので、これを機にどんどん掘り下げるのもいいでしょう。