SHM−CDで再発売、岩崎復活後のビクター時代5作!
3月に童謡・唱歌を歌ったALBUMシリーズがリリースされ(こちらで紹介)ついにコンプリート。2007年から3年をかけめでたく完結となった岩崎宏美オリジナル・アルバム紙ジャケット・コレクション。
思えばヒロリンのアルバム初復刻は91年でしたから、指折り数えると20年の歳月が流れたことになります。ヒロリン自身と同じく20年の間には復刻事情も紆余曲折、初期のモノは形態が変わって3度の買い換えとなったり、イロイロありましたけれど、ラックにズラリとそろった24枚+1の紙ジャケは壮観。ボートラもめいっぱい、内容もこの上なく充実していますので、不満を持つ人は誰ひとりとしていなかったのではないでしょうか。
何だかんだいってもデビューから35年、レコードの時代からヒロリンの新譜が出るごとに買い求めてきたワタクシといたしましても、ホントに感慨深いものがあるんですよね。
紙ジャケットを愛おしみつつ聴いていたら、遠足の時、おやつに買ったグリコのスカイミントをみんなでコマソンを歌いながら食べた時のこととか、クラス替えで親友と別の組になって心細かった時、隣の席の子が持っていた岩崎宏美スター下敷き(「センチメンタル」のメロ譜入り!)をきっかけに仲良しになったこととか、掃除の時間、クラスで一番大柄の女の子が美しく揺れるオカッパになりたくてライオンのスウィングで一生懸命トリートメントしていると熱弁してたけど全くの剛毛だったこととか、実生活にまで及んでたヒロリンにまつわる思い出がクリアによみがえってきたものです。
と、アナログLP時代の復刻完了で、全アルバムがすべてCDで聴けるようになりましたもんで、もう思い残すことはない!という感じでいたのですが、なんとビクター時代の最後期、95年に岩崎復活を遂げた後のアルバム5作も再発が決まったそうです!
そういや、08年に復刻された益田宏美セット(こちらで紹介)の時も思いましたけど、全盛期に比べセールスが今一つだった時代のCDは、コンサートに行かれるほどのファンの方でもお持ちでない人が多いみたい。しかも現在は廃盤となっていますしね。
むろん今もなお現役バリバリのヒロリンですし、歌い続けるたびに若きルーキーファンや、復活組のオールドファンなどユーザー層は確実に拡大しているでしょうから、需要が高まるのも当然です。
しかも今回の再発はリマスタリングされ、ビクター系の高音質CDとしておなじみ、ヒロリンの美声がさらに美しく聴こえるであろうSHM−CDになる上、+αのボーナストラック付きなんですと!
うーん、コレはまた買い換えしなくっちゃ!とつい思ってしまうワタシですが、念のために言っておきますと、決して出るモノ全部欲しいというワケではないんですよ。最大の理由は、この時代のヒロリンの音楽が、実に素晴らしいからなのです。
開設当初からこちらにアクセスしてくださっている古参の皆さまはご存じかもしれませんが、20歳過ぎからどんどん濃くなってコッテリとしていったヒロリンの歌声に対して、正直ちょっとゲンナリした気持ちがあったワタシ。しかも益田時代ともなると、企画色の強さと、一流婦人誌で見せた山の手ミセスぶりがその気持ちに拍車をかけてしまったのですね。
CDにしても、ずっとヒロリンを聴いてきたんだし今回も…と半ば惰性のような感じで買ってたりして…(注・もちろん益田時代も素晴らしいものがありますので、言葉尻だけとって誤解なさらぬように)。
しかししかし、再び熱い気持ちを抱かせてくれたのが、95年の岩崎復活アルバムだったのです。
いろんな報道がなされたりして、とっても気をもんだりしたので、一時はそういう心配が聴く耳を曇らせたのかもしれないなどと思ったこともありました。
しかし、心機一転、再スタートを切ったヒロリンは、きっと重度の内面的葛藤に苦しんでいたであろうにもかかわらず、軽やかでありながら毅然としたオーラをまとって、もはや歌しかないことを悟った聖母のように慈愛に満ちた面持ちで、みんなのところに帰ってきたのでした。
それが、好きなうたや歌いたかったうたを集めたというアコースティックな第1弾「
気負いなくうたに向かう姿は、余計な煩悩を削ぎ落としたような崇高ささえ感じましたし、その歌声は教会のステンドグラスから差し込むひとすじの光のように、飾らず慎ましやかでありながら福音の調べみたいに思えたりして。
あの時のヒロリンって、いろんなものをひと思いに断ち切って求道的な境地に至りついた結果、うたの神様に愛されていることをハッキリと自覚し、自ら仕え、人のために歌うことが使命であるのを本能的に悟ったのではないかと邪推しています。
だからこそ、このアルバムを聴き終わった後は、神社仏閣を訪れた後のような、清々しい気持ちを得られるのではないでしょうか。そういう意味では、もはや天賦の美声や抜群の歌唱力に頼ることなく、心ひとつで魂を揺さぶる歌を歌うようになった契機のアルバムと言えそうです。
また、それは単に精神的なことだけではなく、SLTのプロデュースをしていたCAT GRAYのボーカル指導によるところも大きかったのではないかと思います。
これをリハビリのようにして本格的なアルバム制作が始まり、95年にはもう1枚、ロス録音の「
連想するイメージは、肩の凝るハイソなディナーショーから、大人も楽しめるクラブのフロアへとステージを移した歌姫。挿入されたかつてのヒット曲もカッコよくって、ホントAORを飛び越えて、コンテンポラリーなR&Bやソウルのフィーリングが前面に出ています。久々に黒っぽいヒロリンが聴けたなあと思って大喜びしたものです。
しかし、当時のファンにはさほど評判がよくなかったようでとてもショックでしたけど、現在の皆さんの評価はいかがでしょうか。
そして、このアルバムを引っさげて20周年コンサートツアーを行い、同名のライブCDやDVD(ビクター初の音楽DVD!)も出ましたが、今回はそれをセットした「
お次は吉田美奈子も参加した97年の「
この前のライブでも歌われた広瀬香美作ノスタルジックな「PAIN」にしても、黒っぽいスピリットを感じますよね。前に書いたこともありますが、後にMISIAとかが出てきた時、彼女たちってヒロリンの系譜に位置するなあとひとりごちたものです。
なお、このアルバム、ジャケット写真のシャープなアゴのラインがきれいで大好きなんですけど、レコ屋への入荷が極端に少なくなって、置いてるショップをあんまり見かけなくて、またまたショックを受けた記憶があります。
さて、太田さんもそうですけど、ヒロリンにとっても大きな影響を与えたと思われるのが97年12月の筒美京平先生作曲家生活30周年記念。豪華なアンソロジーをきっかけに、旧作の再評価はウナギのぼりとなり、筒美系ディーバとしてのヒロリンも大きくクローズアップされたのです。
そうしてできたアルバムが、ビクターでは最後のオリジナルアルバム(ほとんどがセルフカバーですけど)にして先行シングル「許さない」を含む99年の筒美作品集「
確かプロモーションの時期待ちのためとかで、発売が延期され待ちに待って聴いた日を思い出します。余談ですが、この時のヒロリン25周年キャラのイラスト、好きだったなあ。
さて、肝心の中身は、1曲目の新曲「あなたへ」から、まるでいろんな抑圧のタガが外れ、情緒不安定になったみたいにホントに泣けてきたものです。「素敵な気持ち」「わたしの1095日」「月見草」…地味めの選曲がなおさらに心に響いて、ヒロリンのうたを通して自分の人生を振り返り、見直して、新しい道を見定めた、みたいな。
99年の春は太田さんの初BOXもあり、ホントによく涙して、人生について考えさせられましたけど、実はそういった出来事から生まれたエネルギーこそがこのサイトを始めるきっかけになったのです。
そういう意味では99年3月に「
と、個人的にもとても思い入れのある95年からのビクター最後期のアルバムたち。であるからして、今回のSHM−CD化でどんな音になっているのか興味津々です。
オリジナル盤をお持ちでない皆さんのみならず、これを機に広く聴いていただければと思いますし、ワタシ自身ももう一度振り返って心を洗ってみようと考えています。
なお、ちあきなおみのビクター時代4作のSHM−CD(「
(2010.3.30)