妖精のコールユーブンゲン、EPIC時代のシングル集!
ありませんよね? なんだか不思議な夢を見て朝の5時前に起きてしまって、でもうなされたワケじゃないから気分は悪くなくって、とはいえその夢の啓示をソラミミで聞いたみたいに、今すぐに遊佐未森を聴かなきゃいけないという使命感にとらわれたことって。
おそらくどなたもそんな経験などあるワケないとは思いますが、今朝のワタシは確かにそんな感じでありまして、夜も明け切らぬうちから起きあがり、ひとりゴソゴソとCDを探していたのでした。
昔よく聴いた初期のアルバムは、80年代後期の音がツラく感じるがゆえ手元に置いていなかったのに、それをすっかり忘れ小一時時間も探し回ったんですね。
結局、出てきたのは92年のベスト盤「 桃と耳~遊佐未森ベストソングス 」(廃盤にならずまだ生きてるのにオドロキ!)。で、周りに気を遣いつつも、メンヘル・メルヘンな夢の続きを見るように朝っぱらからミモミモなひとときを過ごしたのでありました。
さて、国立音大出身、遊佐未森のうたをラジオで初めて聴いたのはもう20年以上も前、確か20歳の頃。ホントに驚きました。だって、あの声質といい、ファルセットといい、ホントに太田裕美の匂いがしたのですから。
熱狂的な太田裕美ファンだったワタシですら一瞬錯覚するほどでしたから、太田さんを知るフツーの人はもっと誤解していたように思います。
その証拠にスマッシュヒット「地図をください」がカップヌードルのCMで頻繁に流れた時には、ワタシが裕美ファンであったことを知る友人たちから「あのCMって太田裕美だよね?復帰したんだー」と言われたものです。
当時は、太田さんが結婚で歌手活動を休業、当然ファンクラブも解散し、3年ほどが経ってた時期。唯一やってたラジオも聴かなくなっていましたし、正直太田裕美からは卒業みたいな感じで、とりたてては意識してなかった頃でした。
その時です、太田さんのそっくりさんみたいだった遊佐未森のアルバムを買って衝撃の事実を知るのは。プロデュースが、太田さんの夫君の福岡知彦(智彦)さんだったこと、そして「花ざんげ」という曲のクレジットに太田さんの名が記されていたことを!
いつもの思い込みではありますが、なんとも運命的な感じがしたのは事実です。
そういう流れで、不在になった太田さんのまるで穴埋めをするみたいに聴こうとした時期があり、工藤順子さんの詩や外間隆史さんの曲もすごく好みだったことも幸いして、「空色の帽子」とか「夏草の線路」とか、初期は大好きだったのですね。
あの声と歌い方でファルセットを多用している様子は、天使がコブシをコロコロ回しているみたいだし、その波長は太田さんというより松本伊代ちゃんの声に似ていて、なんだかクセになってしまったのです。
よって、伊代ちゃんのボーカルでも地声と裏声を行ったり来たりする部分が好きな人(筒美京平先生みたい)で、もし遊佐さんを聴いたことのない人がいたとしたら、ぜひオススメしたいなと思ったりしてます。
そんなこんなで、太田裕美〜松本伊代ラインだし、筒美先生が遊佐さんに曲を作ったら珠玉の名曲が生まれるかも、なんて思ったことがあったりして。そして、福岡さんが、こういう感じで太田さんをプロデュースしてくれたら、なんて思ったことも。
遊佐さんって、一時はそのボーカルの透明感から癒し系の筆頭に挙がったり、はたまた少年のような少女のイメージからヘンテコ不思議ちゃん的なとらえ方をされたり、とらえどころのないアーティストイメージもあったように思いますが、個人的にはやっぱり基本の確かさを感じるところが最大の魅力でした。
いったい実在するのかしないのか、ふわふわとした妖精がノスタルジックな書き割り的世界観を歌っているように思えたとしても、実はちゃんとしたコールユーブンゲンを奏でてた…みたいな(意味不明ですが、なんだかそんな感じ)。
とはいえ、ワタシの場合、太田さんが抜けた穴は他の人では決して埋められず、結局は遊佐さんの箱庭迷路的世界の閉塞性——ブレーメンの音楽隊の楽しい響きにつられてついていったはいいけど、ふと我に返ったら実はハーメルンの笛吹きの音色で怖かった、みたいな雰囲気——から逃げ出したくなって、いつしか遠ざかってしまったのですけれど。
そんな遊佐さんですが、太田さん復帰後はジョイントしたりしたこともありますので、裕美ファンにもおなじみの存在ですし、やっぱりこのベストは紹介するべきでしょうか。
1988年4月のデビュー曲「瞳水晶」から97年6月の「ロカ」まで、すなわち遊佐未森がEPIC在籍時に発表した23枚のシングルA面曲をリマスタリングの上、コンプリートで収録した2枚組のシングルコレクション「 Do-Re-Mimo the singles collection 」。
ボーナストラックとして「東京の空の下」のカップリング「いつも同じ瞳」をプラスした全24曲。
時間ギリギリまでめいっぱい収録してもらうことに慣れたご時世ではちょっと物足りない感じもしますが、あの頃の上等で丁寧な作りのアルバムっぽいイメージですかね。
仕様もあの頃の彼女っぽく、初回盤はデジパック仕様の三方背BOX、さらに36ページ(予定)のオールカラーブックレット付きになるそうです。
EPICといえば80年代はシングルカットの王様でしたので、遊佐さんも例に漏れず、同じジャンルの他社アーティストと比べると、シングルの切り方がハンパない気がします。事実、ブレイクした89年なんて、企画盤を含むものの「地図をください」「0の丘∞の空」「暮れてゆく空は」「Silent Bells」の4枚も出ているんですから。
個人的には初期がオススメですが、そう言いながらもEPIC後期のシングルはろくに聴いてなかったりしますもんで、これを機にじっくり味わって、空想の迷宮へとトリップしてみたいと思います。
性差のない少年少女が住む無限に広がる幻想の世界のように見えるけれど、実は囲いのある牧場のようであり、そこで口にする泉の水には良薬のようにいい意味での毒が少しある、そんなあのユサミモリ・ワールドへ。
今となってはちょっと耳障りな感のある80年代後半〜90年代前半独特のサウンドが、どうリマスタリングされているか、普遍的な遊佐坊の魅力が2010年によみがえっているか、という点にも期待ですね。
今回はシングルA面集なので仕方ないのですが、やっぱり残念なのは、太田裕美書き下ろしの3曲が入ってないこと。入っていれば、これをお読みの方の中にも買おう!という気になってくださる方がたくさん現れそうなんですけどね。
ちなみに、太田さんが最初に書いた「花ざんげ」は惜しいことにデビューシングルB面でした。これと「夢の人」「空色の帽子」はデビューアルバムからの3枚「 瞳水晶 」「 空耳の丘 」「 ハルモニオデオン 」にそれぞれ収録されていますので、興味がおありの皆さんはそれぞれのアルバムをどうぞ。
なお、EPIC初期の5作品は2006年に再発済み、後期の4作品はこのベストと同時再発されるのですが、今回も「空耳の丘」が漏れたみたい…。初期のものは再発盤もリマスターされていなかったし、前述の理由から個人的にはリマスタリングされていればぜひとも入手したいのですけどね。
なんてEPIC時代、それも初期に終始してしまいましたが、遊佐さんはもちろん現役、現在はヤマハから新作をリリースしています。これを機に、新しいのもちょこちょこ聴かせていただこう、なんて思っています。
(2010.5.25)
*「Do-Re-Mimo ~the singles collection~」は制作の際、収録音源に間違いがあったため、正規音源収録ディスクとの交換を行っています。購入された方はメーカーサイトをご覧の上ご対応ください。