初期ワーナー時代の紙ジャケSHM-CDボックス!
まさしんぐわーるど。あの「関白宣言」以降、どうも苦手な世界になってしまったワタシではありますが、基本的には幼少時にグレープをたっぷり聴かされて育った身の上です。ソロになってからの「帰去来」「風見鶏」「私花集(アンソロジィ)」、そして「夢供養」あたりまでは実は好きだったりして。
さださんが紡ぐ短編小説のようなうたのストーリーや描写あざやかな一場面はもとより、ハッとする文学的な表現に涙したことも数え切れないほどですし、お得意のユーモア作品でも「雨やどり」みたいな陸奥A子的世界は、むしろ好みであります。
もちろん、シンシアにしても百恵ちゃんにしても、真理ちゃんやヒロリン、清水ユッコ、みづえなどなど、あの頃のアイドルたちがこぞってさだファンを公言してたことも大きかったと思います。
うた以外にも惹かれた部分はありまして、たとえば百恵ちゃんのシングル「秋桜」にはさださん自筆の歌詞が載っているんですけど、あの丸文字の筆跡がすごく好きで、習得しようと書写したことも。ホント恥ずかしい限りですが、コレってかなりなファン、それも心酔していたと言われても仕方ないようなコトですよね…。
でも、件のうたをきっかけにどんどん遠ざかってしまったまま、何曲かよく聴くうたはあっても、アルバムを通してちゃんと聴き返すなどという機会は皆無に等しかったのです。そういう人って多いのか少ないのかよく分かりませんが、初期のまさしんぐファンにうってつけの初回限定ボックスが出るそうです!
それがワーナーミュージック・ジャパン40周年記念企画となる4枚組、ネーミングもズバリなSHM-CDボックス「 さだまさしBOX(仮) 」!
74〜78年のワーナー時代(といってもさださんが立ち上げたフリーフライトもワーナーから供給されていたようだし、あんまり違う印象はありませんでしたよね)すなわちフリーフライトを立ち上げる前のオリジナル・ソロアルバム3枚と、その間にリリースしたシングル・コレクションをボーナスCDとしてプラスした、計4枚組。
アルバムは何度も復刻されておりますが、今回は高品質なSHM-CD。もちろんアナログ盤のジャケット、歌詞カード、オビを再現した紙ジャケット仕様となっています。
一応順を追いますと、76年のソロ第1作「帰去来」。
特筆すべきは、シンシア、百恵ちゃんらが好んでカバーするなどあの頃のアイドルたちをトリコにし、真理ちゃんや由紀さおりに至ってはレコード化もした「童話作家」でしょう。グレープ時代に作ったナンバーの初レコード化でした。
ほかにも、小柳ルミ子に書いた「ほたる列車」を改詩・改題の上セルフカバーした「多情仏心」や、詩世界に感動する「第三病棟」など聴きどころ満載。
個人的には胸を打つカントリーポップ「絵はがき坂」が別格の存在ですね。「雨やどり」のB面としてもおなじみの名曲ですが、悲哀のブレンドがお見事なエンタテインメント作品に仕上がっていると思います。
さださんといえば、やはり銀縁眼鏡の文学青年らしく、知的な詩が味わい深いですよね。ペーソスのあるストーリー性や情景描写などはある意味、松本隆さんとイメージがダブる部分もありますけど、松本さんがやや神経質でスパイシーな味付けが多いのに対し、さださんは独自のユーモアが根底に漂う感じ。それこそがまさしんぐわーるどであり、後年大の苦手になっていく部分なのですけど、この頃はバランスが絶妙でウットリしてしまうほどだと思います。
お次は、77年「雨やどり」の大ヒット中にリリースされた「風見鶏」。
グラミー賞アレンジャーであり、翌年太田裕美の「海が泣いている」にも参加するジミー・ハスケルがストリングスアレンジを担当、ジャケットとともに草原のそよ風のようなイメージがありますが、内容も折り紙付き。
弟の繁理さんが台湾で見つけてきたというメロディーをベースにした「桃花源」をはじめ、森山良子も歌った「セロ弾きのゴーシュ」などもいいですし、詩、曲、アレンジが三位一体の美しさを醸す「つゆのあとさき」は名曲中の名曲。そういえば宮沢賢治、永井荷風ら名作からタイトルを引用するのも、知的なエッセンスをより引き立てた部分でした。
勝手なイメージですが、当時のさだファンって、成績がよくて真面目で優しく、少女マンガは「りぼん」より「花とゆめ」が好きで、「詩とメルヘン」とかを愛読してて、近視とニキビを気にしてるけど空想癖もあって、日記も付けてるし時たま小説みたいなものも書いたりする…そんな女子たちが多かったような気がします。
よって、このアルバムにもそんな女子たちがため息をつくような曲がいっぱい。そういえば、時代は下がりますけど「飛梅」の歌詩をノートに書いていた子はそんな感じでした。
そして78年の「私花集(アンソロジィ)」。これまた名作でございますが、やっぱり百恵ちゃんにプレゼントした「秋桜/最后の頁」のセルフカバー収録が大きな話題となりました。まだ中島みゆきの「おかえりなさい」が出てない時期、セルフカバーなんていう言葉もなかった頃のことです。
お得意の翻案ものでは、梶井基次郎からだという「檸檬」が出色。湯島聖堂を初めて見た時、勝手に想像してた所とまったく違うんでビックリしてしまったことも懐かしい思い出です。
「案山子」も大好きなうたでしたが、今もってさだ繁理さんの笑顔を思い出してしまうなあ。メロウな「SUNDAY PARK」や渡辺俊幸作品の「加速度」もいいけど、1曲だけ選ぶとすれば、やはり人気の「主人公」でしょうか。
90年代以降に提唱された一人一人が主人公的な学校教育や、自分探しなどの人生哲学がブームになったとき、とてもまさしんぐなイメージを受けたワタシですが、あれはコアなまさしんぐファンに教員や公務員になった人が多かったため、まさしんぐ概念が社会に反映されていった…などという解釈をしております。
というさださんBOXですが、今回なんと同じ初回限定4枚組の「 グレープBOX(仮) 」も同発されます。こちらは「わすれもの」「せせらぎ」「コミュニケーション」という、ライブ盤を除く3枚のオリジナルアルバムと、グレープの全シングルAB面を網羅した「シングル・コレクション」をセットにしたもの。
「フレディもしくは三教街−ロシア租界にて−」とか、胸の奥で静かに嗚咽してしまう歌もいっぱいありますし、真理ちゃんファン必聴の「哀しきマリオネット」「告悔」も入っていますので、ぜひこの機会に併せてお求めくださいませませ。
最初からボックスは…という人は、グレープ&さだまさしの魅力を凝縮させた入門編2枚組ベスト「 さだまさし/グレープ ベスト 1973-1978 」をどうぞ。ほどよいダイジェスト加減もさることながら、ディレクターだった川又明博さんのライナーがとっても味があって、聴いてよし、読んでよしの名アンソロジーに仕上がっていますよ。
(2010.5.7)