ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#859
阿久悠メモリアル・ソングス 7タイトル
ビクター編(VICL-64861)/ユニバーサル編(UPCY-7439)/ソニー編(MHCL-2731)/コロムビア編(COCP-40165)/テイチク編(TECE-3467)/ポニーキャニオン編(PCCA-04592)/徳間ジャパン編(TKCA-74598)
*2017.11.15発売、各¥2,500+税

没後10年、作詞家50年、生誕80年記念の7社合同企画!

 昭和後期の歌謡曲を代表する作詞家の一人、阿久悠さんがお亡くなりになったのは2007年の8月1日。まさに光陰矢の如しであることを実感する次第ですが、今年は没後10年というだけでなく、作詞家50年、生誕80年という阿久さんのメモリアルイヤーにあたるそうで、いろんなメディアがこぞってさまざまな企画を実施しています。
 
 たとえば書籍では、文藝別冊のKAWADE夢ムック「 阿久悠:没後十年 時代と格闘した昭和歌謡界の巨星 」が発行されたり、月刊雑誌「 東京人 2017年 09 月号 」で特集されたり、テレビではTBSの「あなたが聴きたい歌の4時間スペシャル」やNHKの「思い出のメロディー」が特集やコーナーを設けたり、ついには日テレの24時間テレビで亀梨和也が阿久さんに扮した「時代をつくった男 阿久悠物語」がオンエアされたり…。
 
 特に、24時間テレビでは阿久さんの未発表詞につんく♂が曲つけた「子供たちの未来をよろしく」がゆかりの歌手たちで大合唱されたことが話題に上りましたが、歌謡曲フリークの阿久さんファンには阿久さん没後の未発表プロジェクトは珍しいことではなくスルーされた印象でした。
 確かに、今年だけでも増田いずみの「 」に収録された「夢」「夢の都」、北原ミレイの「 北原ミレイ~阿久 悠作品を唄う~ 」に収録された「マニキュア草紙」、そして11月リリースのNMB48の山本彩のソロアルバム「 identity 」の「愛せよ」(作曲はいきものがかりの水野良樹)というように枚挙にいとまがありませんし、今後も「阿久悠未発表詞105080プロジェクト」と銘打ち、PLの増田恵子らが続々と発表する計画もあるようなので、格別に驚くことではないのでしょうね。
 
 個人的には番組の40回記念で阿久さんに賛辞を捧げるのであれば、阿久さんが作詞した記念すべき第1回のテーマ曲(ピンク・レディー「2001年愛の詩」)を大合唱した方がいいのになどと思ったことでした…。
 
 余談はさておき、そんな阿久さんのメモリアルイヤーを飾る一大イベントとして、11月17日には、のべ20組以上のゆかりのアーティストが東京国際フォーラム一堂に会する「 没後10年・作詞家50年メモリアル「阿久悠 リスペクトコンサート」~君の唇に色あせぬ言葉を~ icon」が開催されるそうですが、そのタイミングで、新たなCD作品集シリーズ「阿久悠メモリアル・ソングス」7タイトルがリリースされることになりました。
 
 それが、ビクター「 阿久悠メモリアル・ソングス ~青春はこわれもの 」、ユニバーサルミュージック「 阿久悠メモリアル・ソングス~また逢う日まで 逢える時まで~ 」、ソニーミュージック「 阿久悠メモリアル・ソングス~思いのすべてを歌にして~ 」、日本コロムビア「 阿久悠メモリアル・ソングス~女ごころの未練でしょう 」、テイチク「 阿久悠メモリアル・ソングス ~私のいい人つれて来い~ 」、ポニーキャニオン「 阿久悠メモリアル・ソングス~うまく行く恋なんて恋じゃない 」、徳間ジャパン「 阿久悠 メモリアルソングス~私は話してみたかった 」という、レコード会社7社による合同企画コンピレーション・アルバム。
 思い出すのは30周年記念リリースは没後になったものの、まだご存命だった頃に企画された5社合同の「阿久悠を歌った100人」( こちらで紹介)ですが、今回は単なる懐古的な総括というものではなく、過去、現在、未来を縦断するイメージ。
 各メーカーが有するオリジナル&カバーの阿久悠作品に、それぞれ未発表歌詞による新曲を1曲ずつ加えた構成(ビクター:はやぶさ、ユニバーサル:SILENT SIREN、ソニー:サーカス、コロムビア:佐々木秀実、テイチク:川中美幸、ポニーキャニオン:奥華子、徳間ジャパン:北原ミレイ)になるそうです。
 
 まだ収録曲は正式に発表されていませんが、王道的になるであろうオリジナルはさておき、レアなカバー曲にも期待したいところ。
 特にカバー曲は没後、山崎一稔さんの歌鬼などのシリーズ( こちらこちらこちらなどで紹介)を筆頭に相次ぎましたが、今回は全盛期にいろんなアーティストがLPでカバーした音源の発掘も行われているようで、初CD化もポツポツ含まれる予感がしますので、蒐集家の皆さんは細かなリストのチェックをお忘れなく。
 
 せっかくですので、私見ではありますが、簡単に各社別の阿久作品をたどってみましょうか。 
 まずビクターは、阿久さんのシングルA面デビュー作「朝まで待てない」を出したレコード会社として有名ですが、桜田淳子、岩崎宏美、ピンク・レディー、石野真子ら阿久さんが手がけた「スター誕生!」を代表し、阿久さんがデビューからブレーンを務めた70年代のトップアイドルはもちろん、「さらば友よ」「北の蛍」で2度も日本作詩大賞をもたらした森進一ら、深い絆を感じさせるビッグネームも勢ぞろい。
 阿久さん最大のセールスを記録し4度目のレコード大賞受賞曲となった「UFO」を擁し、70年代から没後まで阿久さんの作品集といえばビクターというほど結び付きが強いので、最も充実し、色濃い感じになりそうです。
 とにかく、レコード会社の垣根が高かった78年の10周年に、所属歌手にこぞって阿久カバーを命じ完成させたLP-BOX「阿久 悠 君の唇に色あせぬ言葉を 1968-1978」(追悼盤としてCDでリイシュー、 こちらで紹介)を発売して以来、30周年の「阿久悠大全集 移りゆく時代(とき)唇に詩(うた)」、40周年からの「人間万葉歌」シリーズ( こちらこちらこちらで紹介)など、コンスタントに全集を出し続けたのはビクターだけですからね。
 没後もアーティスト別の作品集( こちらで紹介)や四季折々のシーズンコンピ( それぞれ紹介)など、阿久さんのレコードを最も売ったレコード会社という義理のレベルを超えた深い絆と愛を感じます。
 
 ユニバーサルは、かつてのポリドール、フィリップス、フォノグラム、東芝EMIなど多数のメーカーやレーベルを包括した存在となっているがゆえ、膨大な阿久作品があると思いますが、なんてったって阿久さん初のレコ大受賞曲「また逢う日まで」&3度目の「勝手にしやがれ」と、レコ大受賞曲を2曲有しているのはユニバーサルだけ。レコ大作詩賞受賞曲は「乳母車」「熱き心に」「花のように鳥のように」「螢の提灯」の4曲もありますしね。
 男のダンディズムを映画的に追求したキーヨ&ジュリーのみならず、新御三家では最も後になった野口五郎、阿久さんの自信作「ざんげの値打ちもない」でデビューを飾った北原ミレイ、アメリカンコミックの世界を歌に映すという歌のアニメーション化実験で大成功を収めたフィンガー5、才能に期待するが故に自分の事務所に入れて叱咤激励したスタ誕阿久悠トリオの1人・伊藤咲子や、阿久さんがスタ誕80年代アイドル第1号として勝負を賭けた柏原よしえといったアイドルなどなど、吸収合併を繰り返したメーカーならでは、独自のカラーというよりバラエティーに富んだセレクトになりそうです。
 
 ソニーは、後発だったゆえアイドルポップスやフォークなどヤング勢をメインターゲットに成長したレコード会社ですが、阿久さんの代表曲といえば、今回サブタイトルに引用された「もしもピアノが弾けたなら」(岩崎宏美「愛をどうぞ」がプロトタイプでしょうか)や、森田公一とトップギャランの一連の作品、河島英五の「時代おくれ」といったアダルトポップスなのです。
 それは、阿久さん全盛期の70年代、お互いにライバルと認め合っていた酒井政利プロデューサーがいた会社だったせいでしょう。お互い、火花を散らすからよい作品ができるのであって、手を組むと失敗するというようなことをそれぞれに述懐なさっていたように思いますし。とはいえ、ピンク&ジュリーVS百恵で両巨頭の激突がピークに達した78年の核融合ナンバー「林檎殺人事件」を筆頭に、阿久さんがラブコールを送るも現役時代には実現しなかった南沙織のカムバック1曲目「ファンレター」、「踊り子」に代表されるフォーリーブスのアダルト路線など、2人の相性は言うほど悪くはないと思います。やっぱり、誰もが成功を確信していた清水由貴子を失敗させたことがトラウマになっていたんでしょうか…。
 ということを背景に、EPICも含め作品発注自体が少ないように思いますが、それは吸収したRCAの藤圭子、森田健作、そして阿久さんが青年へと成長させた西城秀樹らで補完する感じでしょうか。
 ちなみに新曲はサーカスですが、80年代に阿久さんが手がけたCMソング「情熱よ」が未音盤化なので、こちらもいつかCD化してほしいですね。
 
 日本コロムビアは老舗レコード会社につき、阿久さんの作品群は豊富。
 「宇宙戦艦ヤマト」に代表されるキッズソングからレコ大&作詩大賞ともに2度目の受賞曲「北の宿から」に代表される演歌、ちあきなおみの「円舞曲」などのニュー歌謡曲まで、ジャンルも幅が広くなっています。
 とはいいつつ、やっぱり今やスタンダードとなった「津軽海峡 冬景色」でブレイクさせた石川さゆりや、スタ誕で惚れ抜いてデビュー曲「おもいで岬」(かまやつひろし「青春挽歌」の焼き直しみたいです)をはじめコンセプトまでを決めた新沼謙治、移籍後の八代亜紀が歌ってレコ大作詩賞に輝いた「花束(ブーケ)」などの演歌系がやはり抜群です。 
 
 テイチクは、没後にユーキャンから出た10枚組の通販CD-BOX「 阿久悠の世界 CD 」の制作が思い浮かびますが、阿久系トップアーティストは、5度目にして最後のレコ大受賞曲となった「雨の慕情」をはじめ、阿久演歌の最高峰といわれる「舟歌」などを歌った八代亜紀。
 レーベルトップの大御所、石原裕次郎らにも書いていますが、阿久作品のセルフカバーを多数リリースしてきた和田アキ子や、阿久悠トリビュートアルバムを出した岩崎宏美ら、移籍組のオリジナル音源移動やセルフカバーも多い印象ですし、ワンショットでカバーアルバムを出したアーティストも多いイメージ。
 作曲家が阿久作品をセルフカバーするという企画アルバムを出したすぎもとまさと、カバーシリーズのあさみちゆきや島津亜矢など、独自の企画ものも結構ありますので、そのへんも収録になるでしょうか。
 
 ポニーキャニオンにとって、阿久さんは救世主的存在といわれておりますが、それはキャニオン・レコード創立後なかなか出なかった大ヒットを、阿久さんが山本リンダで飛ばしたからでしょう。ちなみにフジテレビ絡みの「ピンポンパン体操」が先ではありますが、アレはコロムビア盤が先だったとか…。
 ともあれ、度肝を抜くリンダの再ブレイクはテレビ人だった阿久さんの発想力の賜物でしょうし、リンダの成功体験が後のF5やPLへと発展していったことを思えば、まさに記念碑的な出来事ですよね。
 弟のように可愛がっていた三木たかしさんとのコンビも、最初のヒットを実現させたのがキャニオン・レコードのあべ静江でしたから、彼女の作品も心中に残るお仕事でしょうね。
 また。レコ大作詩賞に輝いた「夏ざかりほの字組」をはじめ、トシちゃんとの相性も意外によく、ジュリーの後を継いだかのような後期のダンディズム作品も特筆すべきです。 
 
 そして徳間ジャパンは、何といっても遠藤ミノルフォンですが、その代表格はやっぱりスタ誕の立役者・森昌子の初期。移籍による音源移動があったとしても、阿久さんの徳間といえばやっぱりマコですよね。
 あと代表的なのは五木ひろしなのですが、阿久さん提供によるヒット曲は「居酒屋」や「契り」などかなり後になってからのこと。
 レーベルの大御所・千昌夫にも書いていますが、阿久さんの思い入れが強かった徳間のアーティストは、阿久さんが勝負を賭けてデビュー曲を書き、今年そのセルフカバーを含むトリビュートアルバム(前述)をリリースした北原ミレイその人でしょう。
 
 なお、今回それぞれのジャケットには阿久さんが代理店時代の同僚で、劇画を共作したこともある盟友・上村一夫氏さんの作品を使用するとのことで、まさに阿久さんのメモリアルにふさわしいパッケージになると思います。
 という記念アルバム。やはりレトロなコレクションに終わることなく、阿久さんの作品を未来へと引き継ぐアイテムとして、広く行きわたることを願っています。
 
 あと、このシリーズとは別に、ビクターとエイベックスから阿久作品のカバーアルバムも同時発売。ビクターは豪華アーティストによる新録のカバーアルバム(CD+別冊BOOKの生産限定盤「 地球の男にあきたところよ~阿久悠リスペクトアルバム(生産限定盤CD+BOOK) 」と通常盤「 地球の男にあきたところよ~阿久悠リスペクトアルバム 」)、エイベックスは30周年記念のカバーアルバム「VELFARRE J-POP NIGHT presents DANCE wiht You」を焼き直した上で40周年記念のカバーアルバム「VISION FACTORY COMPILATION ~阿久悠、作家生活40周年記念~」と併せてセレクトした上で、SPEEDOのHIROらが歌う未発表詞による新曲2曲を加えた「 阿久悠トリビュート・スペシャルソングス ~朝日のように~ 」となるそうです。
 
 
 

(2017.9.8)
 
*濱口英樹さん監修によるデータブック「作詞家・阿久悠の軌跡 没後10年・生誕80年 完全保存版」も発売決定。シングル盤ジャケット約1,300点に加え、アルバム曲、非売品、校歌、社歌、記念曲などの情報も充実した完全保存版となるそうです。
 

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