クリス松村によるお洒落なシティポップスコンピ！

　アナログ回帰と申しますか、ここ数年LPをはじめとするレコード盤とともに、再びもてはやされているのがカセットテープ。
　オープンリールや８トラに取って代わって一時代を築き、やがてMDに取って代わられた遷移を体感してきた我々からすればノスタルジーの象徴ですし、生テープにしろ、ミュージックテープにしろ、演歌やカラオケを愛する高齢者の皆さんの間で細々と生き続けてきたオールドメディアという印象がありますけれど、あの時代を知らない世代にとっては、新鮮さとお洒落さを感じるアイテムなのだとか。
 
　何せ東京・中目黒にオープンしたミュージックテープ専門店には、洋楽邦楽のテープが勢ぞろいし、トンガっている音楽ファンのみならず、カセットそのものを「カワイイ」と感じる若い人がこぞって来店。再生機を持っていないのに買っていくという人も多いそうですからね。
　新譜としても、人気アーティストがカセット版でもリリースしたり、往時のラジカセや生テープが復刻されるなど、全盛期を彷彿とさせる現象が続いております。
 
　先ごろにはおニャン子クラブのシングルカセット9タイトルが、なんとクレーンゲームの景品として復刻。“ゴールデン☆アイドル カセットテープシリーズvol.1”と名付けられているようで、今後も続いていきそうな気配です。
 
　さて、そんなカセットですが、80年代に青春時代を過ごしてきた我々世代にとっては、当時の甘酸っぱい思い出には欠かせないメディア。
　それも生テープで、友だちと貸し借りしたりレンタルレコード（そういえばレンタルカセット屋もありましたね）で借りたりしたLPをテープに落とすのはもちろん、エアチェックやレンタルで集めたお気に入りのナンバーをダビングして、マイフェイバリットテープを作ったものでした。
　レタリングシートを駆使して手作りのインデックスを作成し、時には心境を表したうたや好きな曲を集めて友だちや好きな人に渡したり…。逆に人からテープをもらったときなど、興味津々で聴きましたっけ。
 
　と、前置きが長くなってしまいましたが、このたび、あのクリス松村さんがカセットテープで聴くひと夏の物語をイメージして選曲と監修を務めたコンピCD「 Chris Music Promide あの夏のカセット 」がリリースされることになりました！
 
　ニュー・キッズ・ オネェ・ザ・ブロックというユニット（？）もあったように、世間ではオネエタレントというイメージが強いクリスさんですが、芸能人になる前からピンク・レディーのファンにはよく知られた存在で、音楽家（おんらくか）と称する通り、ジャンルを超えた音楽評論やアイドル評論でもおなじみ。
　その造詣の深さと膨大なコレクションは、かの山下達郎＆竹内まりや夫妻にも認められておりますし、ラジオのレギュラーや歌謡ポップスチャンネルの「注文の多いレコード店」をはじめ、ベストセラーになった著書「 「誰にも書けない」アイドル論 (小学館新書 213) 」（ワタシの電子書籍デビューはこの本でした！）などなど、各方面から一目置かれる存在です。
 
　また、コメンテーターとして出演する番組でも、物事を正面からきっちりとらえた真摯な姿勢が見受けられ、局が求める露悪的な毒舌や茶化したりする発言をしないところにも、真面目な人柄と育ちの良さがうかがえますよね。
 
　であるからして、初のコンピ盤と聞いて内容を楽しみにしていましたら、これがまた、うるさい諸氏も唸るようなシティポップス満載のシブイ選曲。
　EPOのゴキゲンな「VITAMIN E・P・O」から始まるナンバーは、曲順にまでこだわりまくったということですが、なるほど納得。普段の姿勢そのまま“Music Promide”（当初の“Music Avenue”から変更）というタイトルの通り、情景が絵のように浮かぶナンバーを1曲1曲丁寧に選んだ感じが伝わる構成なのです。
 
　個人的には、久保田早紀「シャングリラ」や、ハイ・ファイ・セットが歌うユーミン＋村井邦彦コンビによるスタイリッシュなメロウソウル「土曜の夜は羽田に来るの」だけでクリスさんのセンスに賛同しますが、大ファンを公言する山下達郎、松本隆、ナイアガラ系など、アルバム曲を中心にしたお洒落な隠れ名曲が勢ぞろい。
 
　例えば達郎関係では、中原理恵の自作詩に達郎が曲をつけ、坂本龍一がアレンジした「朝まで一緒に」や、達郎がコーラスを務めるラジ「ジャスト・イン・ザ・レイン」。
　シュガーベイブ時代からのつながりのある大貫妙子は、ユーミンも薬師丸さんも知世ちゃんもカバーしている人気曲「色彩都市」、また盟友・吉田美奈子「LOVE SHOWER」もその流れで違和感がありませんよね。
 
　一方、松本さん関係では、あのニック・デカロのアレンジで南佳孝が歌う松本さんのNY短編小説「SCOTCH AND RAIN」、達郎の弟分的存在でソングライターとしても活躍した濱田金吾は「避暑地の出来事」。
　無理矢理ですが、松本隆＋若松宗雄プロジェクトが手がけたアイドル・高橋美枝が作詞家・風堂美起として詩を書いた楠瀬誠志郎「満員電車は夏の気配」もその括りに入れておきましょう。ホント、楠瀬さんはもっと再評価されていいアーティストですよね。
　なお、佳孝さんがらみでは、ファミリーグループではなかった初代サーカスのデビュー曲にして佳孝作品のカバー「月夜の晩には」も選曲されています。
 
　また、達郎、松本さんともにゆかりの深いナイアガラ系では、トライアングルvol.1の伊藤銀次「Destination」、vol.2の杉真理「青い楽園」、そして幻のvol.2メンバーだった五十嵐浩晃は松本作品の「サマー・トワイライト」。
　そういえば、杉サマとピカデリー・サーカスとして活動した伊豆田洋之「SILENT FACE」もこのグループでしょうかね。
　ちなみに今回、目玉曲となっているのはバブルの象徴として語りつがれるW浅野主演のトレンディードラマ「抱きしめたい！」の挿入歌、羽根田征子の「ENCORE」。意外にも今回、オリジナルリリース以来初めての再CD化なのだそうです。
 
　選曲を見る限りでは“あの夏”は夏真っ盛りの元気なイメージというより、夏の雨に濡れた後の肌寒さや寂しさを感じてしまいますが、そのへんの温度感はBlu-spec CD2が再現してくれるような気がしますし、クリスさん自身によるライナーでより味わい深くなるように思いますね。
　なお、ソニーからのリリースにつき、大半がCBS・ソニーやEPIC・ソニー、RCA、アルファ、ファンハウスといったソニーの管理音源からのチョイスですが、アイドル集も含めクリスさん独自の選曲眼によるカセット的コンピに今後も期待したいものです。
  
　余談ですが、準レギュラーのTOKYO MX「5時に夢中！」で見せる岩下尚史さんとの掛け合いを毎度楽しみにしておりますけれど、更年期シスターズの「淋しい深海魚」はいつ出るのでしょうか…。