ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#873
アン・ルイス 初期7タイトル紙ジャケット復刻
雨の御堂筋/ベンチャーズ・ヒットを歌うVICL-64956)・おぼえてますかVICL-64957)・グッド・バイ・マイ・ラブVICL-64958)・ハネムーン・イン・ハワイVICL-64959)・恋のおもかげVICL-64960)・恋を唄う +4VICL-64961)・ロッキン・ロール・ベイビー +2VICL-64962
2018.3.7発売、各¥2,500+税 <完全生産限定盤>

“夢逢え”効果か?封印が解かれて一挙復刻!

 今は芸能界を完全にリタイアしてアメリカ・LAで暮らしているというアン・ルイスさん。
 
 71年に14才で歌手デビューしてから数年間は意外と地味な存在で、74年に「グッド・バイ・マイ・ラブ」をヒットさせるも、その印象は数多いるハーフタレントの中でもおとなしめの感じでした。それは当時のハーフタレントにしては珍しく両親の愛情をたっぷり受けて育ったお嬢さんだったことや、持ち歌がビートやセクシーさを強調したはすっぱなポップス路線ではなく、王道の歌謡曲路線だったことも大きく関わっていたように思います。
  当時はバラエティー番組などでも一歩下がった様子で、イメチェン以降のトンガったイメージとはまったく異なりますが、後に親友の太田裕美さんが「アンは私と違って古風で奥ゆかしいの」と言っていたように、本来の姿は自己解放に見えたイメチェン後ではなく初期の方だったのかもしれません。
 
 さて、そうこうするうち、歌の方はヒットが続かない状況でも、抜群のファッションセンスが話題になって、芸能界屈指のベストドレッサーという位置づけになったアン。
 お洒落なコーディネートはもちろんデザイン画なんかもお手のもので、キャンディーズ「やさしい悪魔」での大胆な衣装デザインは大いに話題を呼んだものでした。
 ただ歌手としては相変わらず地味目で、77年のユーミン提供作「甘い予感」なんかは結構プロモーションに力を入れていた記憶がありますが、抜けきらない感じだったのですよね。
 
 そんなアンが大きくイメチェンするのは78年、歌謡ロックの先駆けとでもいうべき「女はそれを我慢できない」。親友・百惠ちゃんのツッパリ路線に注目が集まった頃、歌唱や衣装、パフォーマンスも含めより過激で挑発的な感じでしたが、オリコン12位まで上昇する大ヒットとなり、ショッキングピンクな翔んでる女のイメージが定着していきました。
 翌79年には吉田美奈子+山下達郎の「恋のブギ・ウギ・トレイン」をリリースしたり、80年には桑名正博さんとの結婚祝いに竹内まりやが書き下ろした「リンダ」をリリースしたり、活動の幅はぐっと広く充実。特に「リンダ」は60年代ブームと相まってスマッシュヒットを記録、オールデイズ回帰のきっかけとなり、CHEEKシリーズをスタートさせます。ちなみにこのシリーズは82年の続編を経て、85年にはハイスクール時代のアンが大好きだったというカーペンターズ集、そして2007年にはクリスマス・ソング集という流れをたどります。
 
 愛息・美勇士くんの出産休養を経て、82年に本格復帰を果たしたアン。百恵ちゃんが三浦百惠として書いた詞にジュリーが曲をつけた「ラ・セゾン」は、話題性も相まって初のベスト10入り。オリコンでは3位をマークし、“歌謡ロック”という新しいジャンルを確立させていったのはご存じの通りです。
 ただ、歌謡ロックのイメージを守るためか、「グッド・バイ・マイ・ラブ」以外の初期ナンバーはまるでなかったかのような扱いでしたし、復刻時代が到来してからも初期のシングルやアルバム曲が聴けるのはBOXだけという状態がずっと続いていました。ようやく年代別2タイトルが出た「ゴールデン☆ベスト」ですら、初期の「 ゴールデン☆ベスト アン・ルイス 1973~1980 」(SHM-CD盤は「 ゴールデン☆ベスト 1973~1980 」)は73年からという選曲だったほどです。
 
 実際、アン・ルイスの復刻盤というと、2007年にビクターの紙ジャケット・コレクションシリーズに「HEAVY MOON」から「MY NAME IS WOMAN」まで( こちらで紹介)とCHEEKシリーズ3作( こちらで紹介)を含む11タイトルがラインアップされただけで、後が続かなかったのですよね。
 
 そんな流れに変化が出たのは2009年。シングル33タイトルが MEG-CD 化。CD-Rではありますが、B面も含む初期のナンバーの音源が一気に入手できるようになったのです。
 さらに、2013年にはタワーレコード限定でライブ盤やをCHEEKシリーズを含む 16タイトル がプラケースで一挙リリース(セールで廉価で入手できるタイトルもありますので未入手の方は要チェックですぞ!)。紙ジャケはアンコールプレスされたもののすぐに入手困難になったので、歓迎すべき再発でした。
 ただし、タワレコの対象は、78年のイメチェンヒット「女はそれを我慢できない」以降のアルバム、すなわち「Think! Pink!」からだったので、未CD化だったアルバム数枚もようやく復刻されましたが、相変わらず初期はなかったかのような扱いでした。
 
 それが今年1月、72年のファーストアルバムが「 雨の御堂筋 / アン・ルイス・ベンチャーズ・ヒットを歌う (MEG-CD) 」としてMEG-CDのラインアップに追加。ついに封印が解かれたのか、好評を博したせいなのか、今回の復刻へとにつながっていったような気もします。
 また、今年4月にはアルバム「PINK PUSSY CAT」収録の吉田美奈子+山下達郎コンビによる「 Alone in the Dark」がアナログシングルとしてリリースされるなど、和モノ関連の再評価の高まりも後押しとなったのでしょうね。
 
 と、すっかり前置きが長くなってしまいましたが、ビクター正規盤としてはほぼ封印されていた感のある初期、そう、歌謡ロック以前の作品群7タイトル「 雨の御堂筋/アン・ルイス・ベンチャーズ・ヒットを歌う 」「 おぼえてますか 」「 グッド・バイ・マイ・ラブ 」「 ハネムーン・イン・ハワイ 」「 恋のおもかげ 」「 恋を唄う+4 」「 ロッキン・ロール・ベイビー+2 」がようやく復刻されることとなったのです!
 しかも紙ジャケでK2HD PROマスタリング。レコード発売時の歌詞カードなども完全復刻といいますから、待てば海路の復刻であります。
 
 今回復刻されるのは、ビクターのシリーズものベストを除くデビューからのアルバム7枚。まず、ファーストアルバムは前述の通り、先にMEG-CD化されていた「雨の御堂筋 / アン・ルイス・ベンチャーズ・ヒットを歌う」。
 ファーストアルバムといってもアンの場合、71年2月のデビュー曲「白い週末」はオリコン77位止まりで、その後のシングルはチャートインすらせず。
 デビューに当たっては、渡辺プロの方で札幌オリンピックを意識した企画が先に決まっていて、誰に歌わせるかというオーディションを行ったところ、アンが天地真理に競り勝ったという逸話も残っているほどですが、鳴かず飛ばずがゆえ、ファーストアルバムをリリースするまでに1年以上の歳月がかかってしまうのです。皮肉なもので、真理ちゃんはレコードデビューから2カ月余りでファーストアルバムを発表、しかもその年日本で一番売れたLPになるのですからね。オーディションとは立場が逆転した状況をアンはどんな気持ちで見ていたのでしょうか。
 
 というワケで、ファーストアルバム「 雨の御堂筋/アン・ルイス・ベンチャーズ・ヒットを歌う 」は、欧陽菲菲の「雨の御堂筋」、小山ルミの「さすらいのギター」、渚ゆう子の「京都の恋」「京都慕情」など文字通りベンチャーズの日本語ヒットをカバーした1枚で、自身のオリジナルは1曲もなし。ジャケットも歌手本人というより単なるハーフモデルというか、あの当時よくあった本人歌唱ではないバッタもんのLP的な匂いがしています。
 内容の方も、まだカタコト感が抜けきっていない感じがありますが、それはそれで味わい深いのではないかと思います。
 
 それから1年、73年発売の2枚目はやっとアン・ルイスのLPという感じのオリジナル・ファースト・アルバム「 おぼえてますか 」。先行シングル「わかりません」と「おぼえてますか/あのね……」を含む12曲が収録されていますが、安井かずみ、山上路夫、千家和也、すぎやまこういち、川口真、森田公一、井上忠夫ら、売れっ子の職業作家陣がズラリ。
 「ひとりぼっちの男の子」はブルー・コメッツのカバーのようですが、その他は書き下ろしだそうで、当時のヒット歌謡のメロディーやサウンドが好きな人なら真っ先に入手すべき1枚ではないかと思います。
 
 そして74年、なかにし礼+平尾昌晃コンビによる6枚目のシングル「グッド・バイ・マイ・ラブ」は、彼女の最初の大ヒットとなり、オリコン最高14位をマーク。27週にわたってチャートインするロングセラーを記録し、カラオケでも末永く愛されている定番曲ですが、この大ヒットをタイトルにしたのが3枚目「 グッド・バイ・マイ・ラブ 」。
 しかしながら、サードアルバムというよりベスト・ヒット・アルバムで、しかもコンプリート・シングルズ。「グッド・バイ・マイ・ラブ/暗くなるまで待って」からさかのぼるように、「おぼえてますか/あのね……」「わかりません/悲しみはふるさとの想い出」「ハッピーヨコハマ/北国の雨にぬれて」「明日になったら/愛の聖書」「白い週末/白い街サッポロ」という6枚のシングルAB面で構成されていますので、まず初期のシングルをコレクションしたいという人にオススメです。 
 
 続く4枚目は「グッド・バイ・マイ・ラブ」のヒットに後押しされ、インターバルを置かずに出た「 ハネムーン・イン・ハワイ 」。制作期間が短かったせいなのか、当時のアイドル歌謡LPの王道、日本語のオリジナル&洋楽カバー集となっています。
 オリジナル6曲は、ロングヒットとなった「グッド・バイ・マイ・ラブ/暗くなるまで待って」の再収録と、タイトル曲のシングル「ハネムーン・イン・ハワイ/ためらい」、そしてこのアルバムからシングルカットされる「フォー・シーズン/ジス・イズ・マイ・ラブ」。基本、「グッド・バイ・マイ・ラブ」の延長線上にあるドリーミーな歌謡ポップスが展開されています。
 洋楽カバーはつのだひろの「メリー・ジェーン」のほか、スタイリスティックスの「ロッキン・ロール・ベイビー」など、ソウル&ディスコのムード。「ロコモーション」に「ジャンバラヤ」など、グランド・ファンクやカーペンターズがリバイバルヒットさせたナンバーも含め、アンの好きな本国のロックナンバーという感じでしょうか。
 スタンダードな構成ですが、シンシア、アグネスと同様、洋楽カバーを原語の英語で歌っているのがポイント。3人の中ではアンが最もクセがなく、安心して聴ける感じがしますね。
 
 続く75年の「 恋のおもかげ 」は、オールデイズ調のシングル「恋のおもかげ/気まぐれな私」を含むオリジナルアルバム。シングルと同じフォトジェニックなジャケットからは、ファッションセンスのよさが漂っていますが、サウンドや歌声も含め、こういうメロウでお洒落な雰囲気がアンの魅力の真髄のような気がします。
 作家陣としては、なかにし礼、安井かずみ、山上路夫、川口真、平尾昌晃、森田公一といったおなじみのヒットメーカーの先生方に加え、さいとう大三、岡田富美子、穂口雄右、馬飼野俊一ら当時新進作家だった各氏が参加。今思えば昭和歌謡の豪華作家陣、夢の競演アルバムといったところ。やっぱり歌謡ポップスの王道という感じなので、昭和歌謡フリークこそ必聴ではないでしょうか。
 
 76年の「 恋を唄う+4 」は、エリザベス・テイラーそっくりのジャケット写真やタイトルも含め情念のこもった純歌謡曲アルバムという感じですが、内容は日本語オリジナル&洋楽カバー。
 オリジナルはシングル「ラスト・シーン/待ちわびて」をはじめ、穂口雄右さんをメインライターに迎えた上質な歌謡ポップス。そういえば「ラスト・シーン」は、同じナベプロだったテレサ・テンも歌っていましたね。
 カバーの方は「アメリカン・グラフィティ」に端を発するオールデイズブームを背景に、「恋の日記」「悲しき雨音」「プリーズ・ミスター・ポストマン」「ビー・マイ・ベイビー」「肩にほほをよせて」「君はわが運命」といったオールデイズ。当時流行のディスコのタッチのサウンドもあり、アンの洋楽カバーらしい仕上がりといえるでしょう。余談ですが、この当時からアンの洋楽カバーには定評があって、ナベプロのアポロンからはテープが出ていたように思います。
 それと今回は4曲ボーナストラックがつくそうで、なかにし+平尾コンビの「ごめんなさい/明日にしましょう」、映画主題歌カバー「ラストコンサート/恋のラストシーン」というアルバム未収録シングルの模様です。
 
 そして最後は77年、ニューアルバムではなくオールデイズの企画ベスト盤「 ロッキン・ロール・ベイビー+2 」。50~60年代のオールデイズブームはピークを迎え、過去のロックンロールやポップスのオリジナル音源がリバイバルヒットしたり、ロカビリー三人男がカムバックしてユニットを組んだり歌謡界でもピークに達しておりましたが、このアルバムは、そんな背景を強く意識してリリースされた企画ベスト盤です。
 当時、ビクターではカバーポップス時代のオリジナル音源を集めたオムニバス盤「ロックン・ロール・グラフィティ」と「ポップス・グラフィティ」という2タイトルが同時発売されましたが、コレはそのアン・ルイス版という感じのLP。シンシアの「南沙織 ポップスを歌う」、アグネス・チャンの「カントリー・ロード」 とかと同じく録音時期が異なる音源を寄せ集めたベストにつき、特に初期のベンチャーズカバーは違和感がありますが、コンセプト・ベストという意味ではゴキゲン。オールデイズファンやアンの洋楽カバーのみに興味があるという人にはマストアイテムです。
 チープなジャケもいい感じで、コーク片手にきつめのメイクで決めたアンは、まさにアメリカンギャルですね。
 
 なお、ボーナストラック2曲ということですから、ユーミン提供曲とアラン・シャンフォーのカバーをカップリングした同時期のアルバム未収録シングル「甘い予感/青春の一ページ」で決まりしょう。「青春の一ページ」は同じナベプロのリリーズもアルバム( こちらで紹介の「花のささやき」)でカバーしておりますが、アン・ルイスの初期路線がこの曲でオーラスとなるというのが実に象徴的で、感慨深いですね。
 ちなみにビクターにあるアン・ルイスの音源としては、阿久悠作品のカバー「絹の靴下」「お手やわらかに」「うわさの男」もあります。「君の唇に色あせぬ言葉を ~阿久 悠 作詞集 1978」でCD化済みではありますし、レコーディング年代が異なりますが、追加収録されるといいですね。
 
 というアン・ルイスのビクター初期7タイトル紙ジャケ復刻。70年代のLPらしいといえばそれまでですが、貴重な音源であることに間違いありません。完全生産限定盤ですので購入するタイミングに要注意ですが、ベストや企画盤も入っているので重複も結構ありますので、収録曲を細かくチェックしながら順々に買い揃えていくのもいいんじゃないでしょうか。
 
 3月には大瀧詠一御大がアンのために書いたナンバー「夢で逢えたら」づくしの企画盤( こちらで紹介)もリリースされますが、オリジナルシンガーならでは、 タワーレコードでは販売施策として「CHEEKⅡ」発売時のプロモーションシングル「DREAM BOY/DREAM (夢で逢えたらENGLISH VERSION)」のレコードが抽選で当たるプレゼントも実施されるとか。
 ナイアガラフリーク必携、競争率は高そうですが、紙ジャケの購入者には先着で応募ハガキが付いてくるそうなので、ぜひお早めに!
 
 
 

(2017.12.26)

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