音楽家・井上鑑の作品集2タイトル同時発売！

　1981年のメガヒット「ルビーの指環」を筆頭に数多くの名曲を手がけたアレンジャーとして、大瀧詠一御大のナイアガラサウンドを支えた音楽家として、ピンク・レディーのバックミュージシャンやコンサートの音楽監督として、やまがたすみこさんの夫君として…というように、いろんなイメージのある井上鑑さん。
 
　近年もPLの再結成ツアーや風街レジェンドでの風街ばんどなど、出演されたステージを拝見するたび、よくお似合いのアシンメトリーなグレイヘアと相まって、ますますアーティスティックでお洒落なジェントルマンの印象を強くしておりますが、このたび偉大な功績をまとめた作品集が編まれることになりました！
 
　それも、ユニバーサル ミュージック盤「 Seeing(Works of Akira Inoue) 」と、ソニーミュージック盤「 Believing(Works of Akira Inoue) 」の２タイトル、各2枚組での登場です。
 
　“音楽家・井上鑑”が作詞、作曲、編曲などで関わった数々のアーティストの音源を各32曲、合計64曲がチョイスされておりますが、まずは「Seeing」。
　新編曲によるチェロ・アンサンブル・バージョンによる福山雅治「クスノキ」をはじめ、新旧の名曲が厳選されておりますが、寺尾聰「出航 SASURAI」や稲垣潤一「夏のクラクション」、薬師丸ひろ子「探偵物語」、松田聖子「風立ちぬ」など、イントロだけでゾクゾクくるヒット曲はもとより、ピンク・レディーのラストシングル「OH!」、りりィによる森村誠一シリーズのエンディングテーマ「さわがしい楽園」など、渋めのバラードも素晴らしい出来です。
 
　ほかにも、やまがたすみこが英語で歌うポール・ギャリコのベストセラー本「雪のひとひら」のイメージソング「COME HOME TO ME NOW」、スリー・グレイセスのJR東日本のイメージソング「秋」、NIAGARA FALL OF SOUND ORCHESTRAによるインスト「カナリア諸島にて」といった通好みの選曲も泣かせますし、山口美央子「Telephone Game」、かとうはつえ「カスケード」、津和のり子「センチメンタルじゃーね」などのレア音源もいっぱい。アレもコレも鑑さんだったのか！とあらためて驚かされたりして。
 
　そして「Believing」は、大瀧さんが大瀧詠一楽団としてドラマ用に制作してアルバム未収録だったインスト曲「Istanbul (Not Constantinople) 」の初収録が目玉で、鈴木雅之による「ルビーの指環」やゴスペラッツによる「Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba 物語」といった名カバーなどの聴きどころが満載ですが、歌謡曲フリークも食指が伸びそうなコアなナンバーが目白押し。
 
　中でも筒美京平ブームに沸く99年に、筒美先生が久々に郷ひろみに書き下ろした「男が恋に出逢うとき」、太田裕美が本格活動再開前の94年、日本テレビのキャンペーンソングとして発表した「Virginから始めよう」、渡辺真知子が由紀さおりのカバー「生きがい」との両Ａ面として出したボッサ「寒い夏」、松田聖子が最強だった83年に提供した隠れた名曲「Misty」など、ホント渋すぎ！　鑑さんの幅の広さにマニアックに浸れる内容になっていると思います。
 
　もちろん御大の「幸せな結末」やハイ・ファイ・セットの「素直になりたい」といったヒット曲も聴き逃せませんが、個人的には、かもめ児童合唱団による「私の世界」がオススメ。ドラマ「泣くな、はらちゃん」の劇中歌で、出演者の1人であった薬師丸ひろ子も気に入ってライブで歌ったこともある、なんとも深い名曲です。
　余談ですが、個人的には鑑さんアレンジでまとめられた「薬師丸ひろ子ソング・ブック」（vol.2は萩田光雄さん）というインスト集を長年聴いておりますが、鑑さんと薬師丸さんの相性も抜群だと思っております。
 
　という精選作品集、2タイトル。これを機に、再評価が一気に高まりそうですけど、鑑さんはもちろん現役バリバリ。11年ぶりとなるオリジナルアルバム「 OSTINATO 」も同時発売されるとのことです。
 
　なお、10代の頃から、コピーライターをなさっていた叔母さんの縁でON・アソシエイツのCMのお仕事をなさっていたという鑑さんですから、音楽家としてのルーツを振り返るならばCM音源をまとめた「 井上鑑CM WORKS ON・アソシエイツ・イヤーズ 」も外せないところ。
　こちらには、松本隆の作詩で鑑さんが作曲した太田裕美「赤いシャポーの味の素」も収録されておりまして、ブレイク直後のカントリーポップの太田さんの隠れた名曲となっております。現在は入手困難のようですが、興味がおありの方はぜひ探してみては。