2年ぶりの続編は、オリコン1位のオリアル&ライブ!

　イルカの軌跡をたどる企画として、2013年にスタートしたアーカイブ・シリーズ。
 
　ただのリマスタリング復刻ではなく、アルバム未収録音源や貴重なアウト・テイクを収録したディスク付きという、コアなファンほどが大喜びする好企画です。
 
　まず、Vol.1「イルカの世界」＆「夢の人」とVol.2「イルカ・ライヴ」＆「植物誌」（ こちらで紹介）という2タイトル、すなわちソロデビューから４枚のアルバムががリリース。
 
　3年ほど間が空いたためか、2016年のVol.３では「我が心の友へ」＆「FOLLOW ME」（ こちらで紹介）と80年代へ移行。
 
　産休中の企画アルバム「ボヘミアの森から」「ちいさな空」と、復帰作にして70年代フォーク時代の総決算的代表作「いつか冷たい雨が」とライブ「あしたの君へ」がスルーされ、Vol.4は「ノエルの不思議な冒険」のDVDというように、企画自体が変則的な感じになっておりました。
 
　それから２年、さかのぼる感じで続編「 イルカ アーカイブ Vol.5 「いつか冷たい雨が」「あしたの君へ」 」がようやくリリースされることになりました！
　ただし、Vol.３までのようなアルバム未収録音源や貴重なアウトテイクを収録したディスクはなく、2枚組となっているようです。
 
　とはいえ、1枚あたり税込み1300円と、90年代に再発されたCD選書よりもお買い得な廉価盤。しかもアーカイブ・シリーズならでは、今回もイルカが書いたメッセージや解説、懐かしい写真やイラストも掲載されるので、やっぱりコレクションしておくべきでしょう。
 
　さて、「いつか冷たい雨が」は79年9月リリース。
中島みゆきサンが「あの人は男子中学生だと思っていた」のでたまげたという出産を経て、春にシングル「海岸通」（風のナンバーで先にアグネス・チャンがカバーしています）で復帰したイルカにとって、オリジナルアルバムとしては2年半ぶり。オリコンでは1位を獲得しています。
　石野真子のために書いていたという「ママの日記帳（ダイアリー）」、愛息・冬馬君の命名を歌った「冬の馬」など、ママになったイルカの母性が全面に出た1枚ですが、極めつけはタイトル曲でしょう。
　当初は「みんなのおかあさんになりたい」というタイトルでシュリークス時代から歌われていた長編ナンバーで、ライブ盤には収録されていましたが、スタジオ録音されたのはこの時が初めて。生き物の命、人も自然の中の一員というイルカの生涯のテーマが既に凝縮された名曲です。
 
　そして、ライブ盤「あしたの君へ」は80年3月リリース。
　前年12月に渋谷公会堂で行われた「’79 イルカリサイタル」の模様を収録。初のライブ盤「イルカ・ライヴ」から4年が過ぎていますが、基本的にはちっとも変わらないイルカの、ほのぼのとしたステージスタイルが堪能できるライブアルバムです。
　　タイトルにもなった「植物誌」収録の「あしたの君へ」をオープニングに、ソロデビュー曲「風にのせて」や大ヒット曲「なごり雪」、「片想いの少女へ」「雨の物語」「海岸通」といったシングル曲を中心にチョイス。イルカのコンサートならでは、お客さんとの心あたたまる交流もパッケージされています。
 
　毎回言ってますが、イルカの音楽って、一見するとちいさな空に浮かぶ雲みたいにのんびりほんわか、性善説のメルヘンに見えるんですけど、実はそうではない。根底には現実を見据えた厳しい瞳があり、音楽には大地に根を張ってたくましく生き抜く生命力を映し込んでいるような気がします。
 
　だから、これらイルカの旧譜をこれからも大切に聴き続けたいし、イルカの歌う、人間いや生き物である限り持ってる良心みたいな音楽をやっぱり大切にしていかなければと思います。
　あのトレーナーにオーバーオールのイルカが、ギター抱えてニカッっと笑って歌ってくれている限り、どんなことがあってもやさしい気持ちを取り戻せるはずだし、八方ふさがりの時だってきっと何とかなると信じられるのだから…。