共同制作50周年を記念した初の作品集！

　1970年の発表から47年を数える名曲「翼をください」。オリジナルは赤い鳥ですが、これまでに無数のカバーが存在し、音楽の教科書に採用されたり、サッカー日本代表の応援歌や数多のＣＭソングに起用されたり、まさに時を超えて幅広い世代に愛され続けています。
 
　昔からJASRACの著作物使用料の分配額が多い作品として有名で、近年だけでも2013年や2016年の国内作品分配額ベスト10入りを果たす（いずれも9位）など、日本のスタンダードソングといえる存在ですが、この歌を作ったのは山上路夫＋村井邦彦のゴールデンコンビ。
　60年代から作詞家、作曲家として活躍する大御所のお２人はそれぞれにたくさんのヒット曲を世に出されていますが、69年にアルファミュージックの設立者として名を連ねた通り、固い固い絆で結ばれているんですよね。
 
　実はこのコンビが初めて共同制作をしたのは、村井さんが作曲家となった67年で、今年でちょうど50周年。12月15日には、村井さんの作曲活動50周年を記念したコンサート「 LA meets TOKYO 」が東京・Bunkamuraオーチャードホールで開催されますが、その中では山上さんとの共同制作50周年を祝して２人の作品も演奏される予定だそうです。
 
　という記念コンサート開催のタイミングで、このコンビによる３枚組の作品集「 「翼をください」を作った男たち~山上路夫・村井邦彦作品集~ 」も編まれることになりました！
 
　しかも山上さんによる選曲で、なんと初商品化音源も３曲収録予定なのだとか。さらにジャケットは矢吹申彦さんの書下ろしということで、記念にふさわしいパッケージになるようです。これで1枚当たり1,500円というお得な廉価というのですから、やっぱり入手すべきでしょうね。
 
　収録曲はまだ正式に決まっていませんが、やはり「翼をください」が軸になっていて、３枚のCDすべての１曲目を飾るという念の入れよう。
　そもそも「翼をください」は、赤い鳥がヤマハ主催で70年11月に行われた「合歓ポピュラーフェスティバル'70」に参加するために作られた曲で、「世界歌謡祭」の前身となる「第1回東京国際歌謡音楽祭」といった国際的な舞台でも披露されてはいますが、初出は71年のシングルＢ面だった曲。Ａ面化されたのは72年11月ですが、その時は英語版だったので、いわゆるシングルレコードが売れたという意味でのヒット曲ではないんですよね。
　それがここまでのスタンダードになっているのは、やはり愛唱歌としての魅力と人気によるものでしょうね。
 
　DISC１は、コンビ初期の60年代。洗練の骨頂といる森山良子の「雨あがりのサンバ」や大ヒット「恋人」、ザ・タイガース「廃墟の鳩」、トワ・エ・モワ「或る日突然」と、今日まで歌い継がれる名曲やヒット曲がずらり。
　特筆すべきは、布施明の壮大なスケールの「組曲『旅』」でしょう。「孤独な都会～たそがれの出逢い～幸せな日々～別離（わかれ）～夢のまの人生」の5パートからなる組曲で 、未CD化の企画LP「ダブルデラックス」の片面にまるまる収録されていたもの。東海林修さん編曲で、後の野口五郎の世界観に通じるものがあります。
 
　DISC２は、アルファミュージックの歴史といった風情で、赤い鳥に初めて書いたシングル曲「小さな歴史」や「忘れていた朝」「窓に明りがともる時」といった名曲群、B面に取って代わられたけれどレコードは大ヒットを記録したガロ「美しすぎて」、そしてハイ・ファイ・セットのコンビ最高峰ナンバー「胸のぬくもり」などなど。
　ほかにも、ユニセフを通じ世界に広まった「美しい星」（今回は森山良子バージョンを収録）や、山上さんがメイン作家であった国民的トップアイドル・天地真理「明るい表通り」、弘田三枝子に書いた洒脱な「恋はフィーリング」など、コンビ全盛期の佳曲が勢ぞろいしています。
 
　そしてDISC3は、近年の作品集。山本潤子さんが率いたコーラスグループ・Aprilの「春のランチ」から、オペラの森麻季による被災地チャリティーソング「つばめが来る頃」、2015年の村井さんの古希を祝った夢のコンサート「ALFA MUSIC LIVE」のために書かれた小坂忠＆Asiah「音楽を信じる We believe in music」まで、老いてなお瑞々しいコンビの魅力が詰まっておりますね。
　森山良子「はるか（嘉悦学園100周年記念キャンパスソング）」、山本潤子「希望号はゆく （祐誠高校校歌）」といった校歌も清々しいですし、復活を遂げたトワ・エ・モワの「お早う」「時が二人を忘れても」も素敵です。目玉は、やっぱり山本潤子「いわし雲」でしょう。
　それにしても全編を通じて、森山良子、山本潤子、白鳥英美子（トワ・エ・モワ）のナンバーが目立っていますが、V3（VOICE THREE）というユニットも結成したこともある彼女たちは、いわば“村井邦彦３人娘”。多く選曲されているのももっともなことでしょうね。
 
　それと、お２人の作品群に漂うのは、何と言っても品格と洒脱なセンス。２人とも良家で育った人特有の人柄が作品にじみ出ているように思いますが、本当の品格が分からなくなってしまった今の時代こそ、お２人のアンソロジーは、特別な意味を持つのではないかと思います。
 
　お互いが信頼し合う特別な存在であることは、楽曲のクオリティをみても分かりますが、細かなエピソードについては、村井さんの伝記本「 [アルファの伝説] 音楽家 村井邦彦の時代 」や、それぞれが取り上げられたBSフジの人気番組「HIT SONG MAKERS 栄光のJ-POP伝説」シリーズなどを併せて鑑賞したいところです。
 
　なお、個別の作品集としては、村井さんの場合は、アルファを総括した98年の「村井邦彦の世界」、GS時代のヒット曲をまとめた2001年の「村井邦彦GSコレクション」もありますが、やっぱり2007年に出たBOX「The Melody Maker ～村井邦彦の世界～」（ こちらで紹介）がオススメ。
　作品集ではありませんが、村井さん のレコード会社のコンピ盤にして古希祝いの「ALFA MUSIC LIVE」に連動した2015年の「アルファレコード ～We Believe In Music～」（ こちらで紹介）もどうぞ。 
 
　山上さんの方は「 山上路夫作品集~翼をください 」が2012年にリリースされていますが、歌謡曲からGS、アイドルポップス、フォーク・ニューミュージックまで、本当に幅が広く大ヒット曲ばかりなので、昭和歌謡史を紐解くような趣にビックリすること請け合い。
　由紀さおり「夜明けのスキャット」、森山良子「禁じられた恋」、小柳ルミ子「瀬戸の花嫁」、天地真理は「虹をわたって」ほか一連のナンバー、ガロ「学生街の喫茶店」、野口五郎「私鉄沿線」といったオリコン１位獲得曲も多数。大全集が編まれてもおかしくない実績ですので、BOXの企画を待ちたいと思います。