ナツメロ喫茶店/オススメ復刻盤383

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  ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#382

なかにし礼/世界は俺が回してる

(2009.12.23発売、MHCL-1687、¥2,100) *なかにし礼著「世界は俺が回してる」(角川書店、¥1,785)は12.17発売予定

昭和歌謡とテレビ界の蜜月!傑作小説のサントラ的CD!

 数々の大ヒットを手がけた作詞家として知られ、日本レコード大賞を3回も受賞したかつてのヒットメーカー・なかにし礼さんは、今や直木賞作家の肩書きを持つ文壇の大先生。

 何年か前、音楽関係の著作権を日音に譲渡したということを聞き、もう音楽のお仕事からは退かれたのかなと思っていたこともありましたが、今夏にはNHK教育でオンエアされた「知る楽 探究この世界」にご出演。“なかにし礼 不滅の歌謡曲”と題して、歌謡曲の変遷と意義をとても分かりやすく説いてくださいました。

 メディアでお見かけするマオカラーのジャケットに愁いをたたえたお姿は、昔は怖くさえ感じられた眼光の鋭さと孤高な優男という顔立ちのバランスがなんとも言えない魅力に変わり、世俗の煩悩から解脱した僧侶のようにも思えてきます。
 その面差しの厳しく優しい陰影を拝見するにつけ、私などはただ憧れるばかりなのですが、昭和歌謡の作り手であり、生き証人といいますか、語り部としてのお仕事も積極的にこなされているようで、とてもありがたく拝聴している次第です。

 中でも忘れてはならないのが、今年1月から8月まで産経新聞で連載された小説「世界は俺が回してる」。
 “ギョロナベ”の異名を持つTBSの名物プロデューサー・故渡辺正文さんを主人公に、取り巻く人物やスターを実名で登場させた上、全盛期のテレビ界と歌謡界の蜜月だけでなく芸能界の表と裏を丹念に描いて大きな話題を振りまいたのは記憶に新しいところです。

 昭和歌謡の黄金期そのままに、美しく華やかで、濃くて怪しげで、虚実が入り乱れるスケールの大きな世界。それは、宇野亜喜良さんの挿し絵も相まって、時にはため息をつき、時には固唾を飲んで見守ってしまう極上のエンタテインメントでした。

 個人的な感覚ですが、子どもの頃、好奇心の赴くままオトナの世界を垣間見て異常な興奮を覚えた感じと酷似していて、ちょっと読んだだけでも憧憬と罪悪感が混ざり合ったような混沌とした感動を覚えたものです。
  私事ながら経費節減の折、以前は手を伸ばせばそこにあった産経新聞がわざわざ閲覧に行かなければならない状況となり飛び飛びにしか読めなかったので余計に…。

 そういうワケで、単行本で一気に読破できるのを心待ちにしておりましたが、12月に角川書店からの刊行(「 世界は俺が回してる 」)が決定した模様。
 取り次ぎをすっ飛ばしていち早く買いたいほど落手する日をとても楽しみにしておりますが、これに合わせなんとサントラとでも言うべきアルバム「 世界は俺が回してる 」も発売されるのだとか!

 世界のスター歌手が集結させた奇跡のような一大イベント「東京音楽祭」を取り仕切り、オトナの上質ショウビズ歌番組「サウンド・インS」などを世に送り出したという愛憎の主人公・ギョロナベさんですが、アラフォー世代には「ザ・ベストテン」創始期のトッププロデューサーとしてなじみ深いのではないでしょうか。

 部下でいらした山田修爾さん著の「 ザ・ベストテン 」で、ベッテンの公正なランキングを貫こうとする山田さんに詰め寄る冒頭のエピソードを読んだ方も多いことでしょう。
 そのへんだけで推し量ると若い世代にはきっと前時代的で悪玉的な印象が強いのかもしれませんが、個人的にはとにかく魅力的に映ります。

 特にマスコミとかいわゆるギョーカイには、ちょっと前までは似たような生き方が許される人がどこにも必ずいたものですし、当時はまったく共感できなかった部分も齢を重ねて初めてその思いを理解できたり、あのスケールに到底及ばない我が身のていたらくを痛感したりすると、今となってはなんだか思慕の念が募ってくるんですよね。

 誰もがなれるワケがない分、勘違いでも何でも“世界は俺が回してる”という思想を持ち、態度だけでなく果敢に行動する人は世の中に絶対に必要だと思っています。発端が超利己的な理由であろうが、もたらした結果を検証すると大半はそれだけで終わっていないのですから。

 さてそんなゴタクはさておき、今回のサントラ的CD。なかにしさんの作品集ではなく、小説にゆかりの楽曲を凝縮した内容になる模様です。

 予定では、ジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」やラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番ハ短調3」などジャズのスタンダードやクラシックをプロローグに、縁の深いハリー・ベラフォンテの「バナナ・ボート」や、新時代の到来を告げたブルーコメッツのレコ大受賞曲「ブルー・シャトウ」、TBSといえば港区赤坂・西田佐知子「赤坂の夜は更けて」、さらには野路由紀子「私が生まれて育ったところ」、レコ大新人賞に輝いた本郷直樹「燃える恋人」といったバーニング系、なかにし作品でもありラビット・パブリッシャーズ所属だった前野曜子さん時代のペドロ&カプリシャス「別れの朝」などなど、ギョロナベさんゆかりの昭和歌謡がいろいろ。

 TBS系の原盤制作会社・日音所属だった南沙織のレコ大新人賞受賞曲「17才」や、東京音楽祭の受賞曲としては、第1回の大賞である雪村いづみ「私は泣かない」、第3回からは金賞のスリー・ディグリーズ「天使のささやき(When Will I See You Again)」に加え、大賞とシナトラ賞をダブル受賞したルネ少年の名唱「ミドリ色の屋根」も収録予定です。

 エピローグの「ストレンジャーズ・イン・ザ・ナイト」まで、甘く危険でうっとりするような世界が繰り広げられ、小説のシーンがよりいきいきと輝き出すことでしょう。

 できることなら洋酒を片手に煙草をくゆらせ、活字を追いながら、気取ってじっくり聴いてみたいもの。
 「世界は俺が回してる」とまでは思えないにしろ、あの時代の人々が持っていたような、美学と責任感に基づいた自信と勇気が湧いてきて、生きる活力もみなぎってくるかもしれません。

(2009.11.6)

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