あらためて聴きたい、珠玉のユーミン作品集!
今春、3年ぶりのオリジナルアルバム「そしてもう一度夢見るだろう」を発表、久々の全国ホールツアー・TRANSITも敢行したユーミン。もちろんトップアーティストとしての健在ぶりを見せたワケですが、ここ数年、謙虚というか、むしろ弱気に思える発言が多く、第一人者の現役続行における苦悩というものをいたく感じてしまいます。
長年、表向きには不遜でいてくれなきゃという思いが強く、林真理子女史のユーミンはランドセルを持たなくてもいい人という発言に膝を打ったり、ファンとして冷徹な雰囲気の時と、無邪気な子どもみたいな時と、どっちも垣間見たりしたことがあるワタシなどは、ついそんな善人になっちゃイヤだと思ったりしちゃうんですけど…。
とはいえ、いくら才能が飛び抜けていたとしても、自らクリアしたハードルを下げることなく未開の地を走り続け、新しいものを追い求めていくことがいかに厳しく孤独なものかは、凡人のワタシでさえ想像がつきます。
もう創作活動を止めようが揺るぎない地位を築いているし、キャリアにアグラをかいても許される立場なのに、あえて険しく創り続けていく方を選んでいる生き方を目にして、もの思うことひとしきり。
だって、一般社会のユーミン世代の人たちって、一般にはいいとこどりの生き方をした挙げ句、なに食わぬ顔をして定年を迎え、楽隠居しようとする輩が多いのですから。
それを盛者必衰だとか、人々を楽しませるために生きなければならない人の業と性、ということで片付けてしまえばそれまでですが、あまたの名曲であんなに多くの人々の青春を彩り、採算度外視でサービスいっぱいのステージを見せてくれるユーミンなのだから、それを享受してきた我々も誠意ある態度を、もっときちんと示さなければなあと感じたのです。
今回のツアーを拝見して、ユーミンに限らず、好きなアーティストに対し自分ができる応援は全部しよう、その人が紡いだうたにいかに救ってもらったかを何かの形で伝えたり、その人を支持していることをきちんと表明していこうとあらためて思った次第です。
それが、天才と同じ時代に生きる大衆の義務ですよね。死後に評価が上がるなんてことは、もしかしたら恥ずべきことではないかと思ったりしつつ…。
さて、またまた重い前置きになってしまいましたが、ユーミンに対するそんな感情は、70〜80年代に彼女に触れた人ならご理解いただけるんじゃないかと思っています。ユーミン自身が歌ったものだけでなく、ソングライターとしてアイドルを中心にさまざまなアーティストにクオリティの高い作品を提供し続けた時代を知っている人なら、きっと。
そういう意味での検証にうってつけ(ってか、そんなことはする必要なく、純粋に聴くだけでOKですけど)のコンピが登場。“ユーミン オフィシャル・カヴァー・コンピ”といううたい文句がぴったりの「 Pure Lips~Yuming Songs~ 」です。
ユーミン作品集はこれまでにもソニーやミディから、提供曲や公認、未公認を問わずカバーを集めたコンピ盤が出ていましたが(ソニー編は全部秀逸!)、今回はユーミンのお膝元、EMIミュージック・ジャパンからのリリースとなるオフィシャルコンピ。もちろんEMIだけでなく、メーカーの枠を超えて編まれた名曲集となるようです。
まだ収録曲は発表になっていませんが、作家としてのユーミンをちょこっと振り返ってみましょうか。
作家に徹し、自分で歌わないものは呉田軽穂名義としていたユーミンですが、例えば、実績トップを誇る松田聖子。松本隆さんがつないだ絆は、本当に日本の歌謡曲のレベルをぐんと上げたものです。
82年に出た、出会いの「赤いスイートピー」。このうたを聖子の新曲として初めて聴いた時、聖子を一生好きでいるだろうと確信したものです。B面の「制服」とともに、いまだ聖子のシングルでは最も好きな1枚です。
今回のコンピのタイトルに引用されている「Rock'n Rouge」は、ユーミンがレベル低下をイヤがってコンビ解消を求めた頃のものだそうですが、実にポップな名曲ですよね。あの頃、ユーミンのお宅には提供曲の印税でリフォームした“聖子の部屋”があったとか。そんなことに思いを馳せるのもユーミン的な感じがして一興です。
また、ユーミンの描くイノセントでエゴイスティックな少女性は、神秘的な角川の令嬢たちにぴったりでした。
薬師丸ひろ子には、松本さんと共作した「WOMAN」も大好きですが、やっぱりユーミンがブレイクの一端を担った原田知世でしょう。初主演映画の主題歌に書き下ろした「時をかける少女」、初主演ミュージカル「あしながおじさん」のテーマ「ダンデライオン〜遅咲きのたんぽぽ〜」と2曲連続で書き下ろしたナンバーは、松任谷由実として提供したもの。どちらも同時期にセルフカバーしましたね。
セルフカバーといえば、紙ジャケ復刻が実現した“松任谷麗美”も松任谷名義での提供でセルフカバー率高し。ユーミンのライブでは歌われる率の高い「青春のリグレット」も麗美への書き下ろしでした。
また、ひところは親しく女性誌のグラビアにも一緒に出てた小林麻美。日本語詩を担当した「雨音はショパンの調べ」がNo.1ヒットということでどうしても選ばれてしまいますが、87年のアルバム「GREY」はユーミン渾身の名作ですので、ぜひそちらも併せてどうぞ(と言いながらとっくに廃盤なのがツライです)。
荒井由実時代のアイドルへの提供曲としては、ナベプロ系が目立ちますが、そのパイオニアと呼べるのがアグネス・チャン「白いくつ下は似合わない」。ホントに名曲ですし、アグネスの象徴的アイテムをズバリ使って、ヤングレディへと成長させたセンスは才気に満ちていますね。
石川ひとみの「まちぶせ」は提供曲ではなく、三木聖子に書いたナンバーですが、オリジナルのアレンジにイマイチ納得していなかったという松任谷マンタさんがアレンジをやり直しています。
また三木聖子は「まちぶせ」のB面で「少しだけ片想い」をカバー。第2弾の「恋のスタジアム」もユーミンの作詩でした。
ナベプロつながりでいえば、筒美先生と共作した五十嵐夕紀の「六年たったら」も。この人は東芝所属でしたから、今回の収録は当たり前というところですかね。
今回はスルーされるでしょうが、同じナベプロでも太田裕美の「袋小路」「ひぐらし」「青い傘」もホントにいいので、未聴の方はぜひトライしてください。
東芝系でいえば、紅組キャプテン・岡崎友紀もアルバムでカバーしたり、書き下ろしがあったり。「グッドラック・アンド・グッバイ」はセリフ入りでした。後に「昔の彼に会うのなら」になるポニー・テール「二人は片想い」も東芝でしたっけ。
そういう意味では「サーフ天国、スキー天国」となる川崎龍介の「サマー・ブリーズ」もいいなあ。今回はメンズは除外でしょうからムリですけどね。
という今回のユーミン作品集、ユーミンのソングライターとしての力量と実績をコンパクトに味わうにはオススメの1枚。コアなユーミンファンやアイドルファンは、ほぼお持ちでの音源ばかりではないかと思いますけど、ユーミンを応援する意思表示として、いかがでしょう、1枚。
実はワタシが期待しているのは、いまだCD化が叶っていないシモンズの「水の影」。そう、今回のユーミンのツアーでも歌われた不朽の名作です。音源は持っているものの、やっぱりCDで聴きたいなぁ…。EMIですしね。あ、EMIといえば萩尾みどりの「ためらい」もあった!(「大連慕情」は「 流行曲中華風味(はやりうたちゅうかふうみ) 」でCD化済みです)
(2009.10.22)