ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#814
Masterpieces~PURE GOLD POPS~売野雅勇作品集「天国より野蛮」
(2016.12.21発売、PCCA-4452、¥8,000+税) *CD4枚組 11.16→12.21に発売延期
*Max Luxによるトリビュート・アルバム「砂の果実~Fujiyama Paradise」(PCCA-4453、¥3,000+税)は11.16発売!

80年代を代表する作詞家、初のアンソロジー!

 中森明菜「少女A」を皮切りに、ラッツ&スター「め組のひと」、河合奈保子「エスカレーション」、チェッカーズ「涙のリクエスト」、郷ひろみ「2億4千万の瞳」、吉川晃司「ラ・ヴィアンローズ」、荻野目洋子「六本木純情派」、矢沢永吉「PURE GOLD」などなど、数多くのヒット曲の歌詞を手がけ(「め組のひと」は麻生麗二名義)、ことし作詞活動35周年をお迎えになった売野雅勇さん。
 
 8月には東京・中野サンプラザで記念のコンサート「Fujiyama Paradise Tour『天国より野蛮』」を開催。今月には35年を振り返った秘話満載のエッセイ本「 砂の果実 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々 」も出版されるなど、記念企画が相次いでおりますが、満を持した感じで登場するのが「 (仮)売野雅勇作詞活動35周年記念CD-BOX「Masterpieces~PURE GOLD POPS~」 」! そう、作詞作品を4枚のディスクにまとめたというCD-BOXです。
 
 構成、内容はまだ正式発表されておりませんのでアレですが、売野さんは80年代を代表する作詞家のお一人ですから、一家に一個必携のボックスだと思います。
 
 個人的に、売野さんの作品に初めて触れ、そのお名前をしっかり意識したのは81年。当時大ファンだった河合夕子さんのファーストアルバム「リトル・トウキョウ」( こちらで紹介)がきっかけでした。 
 このアルバムでは、デビュー曲にしてスマッシュヒットとなった「東京チーク・ガール」以外の全曲を、夕子ちゃんと売野さんが共作(実は「東京チーク・ガール」も売野さんが手を加えているそうです)。第2弾シングルとしてリカットされた「ジャマイカンClimax/バスクリン・ビーチ」、ホリプロの後輩・大沢逸美もカバーした「チャイナタウンでスクールデイズ(香港街学校日々)」などなど、とにかく当時の感覚ではキッチュで奇想天外、それでいてデカダンでホロリとさせる歌詞が多くて魅了されたものでした。 
  
 当初、歌詞カードだけの情報では「売野」を何と読むのかわからず(「雅勇」も読めませんでしたが…)、さらにセカンドアルバム「フジヤマ・パラダイス」 ( こちらで紹介)では旧字の手書きで「賣野」と書いてあり余計に悩ましかったので、それが「うりの・まさお」であることを知るのは、衝撃的なタイトルだった「少女A」(原題はまさに新聞掲載時のような「少女A(16)」だったとか!)の大ヒットまで待たねばなりませんでした。
 
 とにかくコピーライター出身ということもあり、時代の寵児となった糸井重里さんみたく、80年代的広告コピーのようなコトバ遊びを得意とする作詞家が出てきたなという感じだったのは確かです。 
  
 という流れで触れるようになった売野さんの世界ですが、まだティーンだったものの、幼児の頃から有馬三恵子さん、阿久悠さん、松本隆さんらの歌詞を暗誦できるほど聴いてきた身としては、同じ80年代に活躍した康珍化さんが松本さん系ならば、売野さんは阿久さん系というイメージを持っていました。
  
 そして売野さんは特に何でもアリといいますか、詞の内容よりも、漢字の使い方も含めた言葉選びや読ませ方がとても印象に残っています。 
 中でも、筒美京平先生とのコンビによるイメチェンシングル「エスカレーション」を成功させたことでメイン作詞家となる河合奈保子の一連の作品などはそれが顕著で、どんどんエスカレートする様子に驚いたものです。 
 
 特にホイットニーなサウンドがクセになる後期の傑作「プールサイドが切れるまで」では「平凡(ありふれ)た」「手紙(good-bye)投函(おく)るわ」とか奇天烈な売野節が炸裂しておりますけれど、 こちらでもちょこっと触れたように、奈保子さんに書いた詞世界は彼女のキャラと乖離している感じが強く、正直、相性はよくなかったと思っています。 
 河合奈保子作品に限って言えば、むしろ売野さんの功績は歌詞ではなく、新しモノ好きの筒美先生の80年代を牽引したという意味で実に偉大だったといえるのではないでしょうか。 
 
 といってもそれは売野さんの詞世界の限界ではなく、奈保子作品の起点であり最大の成功作が「エスカレーション」である以上、彼女に書く女性像はそのバリエーションにせざるを得なかったのではないかと思っています。河合奈保子が詞を演じて歌うタイプのシンガーではなかっただけに…。
 
 その証拠に、他のアイドルへの提供作は奈保子さんほど難解な作品は少なく、個人的に胸を打たれた曲だけを数えても、松本伊代「淋しさに負けないで」、伊藤麻衣子「さよならのカレンダー」、本田美奈子「青い週末」、西村知美「君は流れ星」など、シンプルでピュアなものが多数なんですよね。 
 その中でのマイベスト3は、岩崎良美「ジャスミンの頃」と、シンシア(南沙織)の「誓い」、そして共作ではありますが河合夕子「太陽の下のラスト・ワルツ」の3曲。いずれも追憶バラードものですが、その心象と情景を重ねた描写と視覚や触覚、嗅覚に訴えかける手法は売野さんのお家芸ではないかと思っています。よく言われる、かなり強引なルビの振り方などでは決してなく。
 なお、楽曲や構成を含めての完成度は岩崎良美に書いた「恋ほど素敵なショーはない」が最高峰だと思っています。 
 
 と、作品集の内容ではなく作品の思い出話ばかりになってしまいましたが、このBOXで軌跡を追いつつまとめて聴けば、時を経てもパワーを持つ売野作品の魅力をあらためて実感できそう。
 近年は大貫妙子&坂本龍一の「美貌の青空」に代表されるように、より純粋詩的な詞世界へとシフトしたような売野さんですが、このBOXならその過程なども理解できそうです。
 
 なお、売野さんがプロデュースしたことでも知られるロシア出身の3人組ボーカル・ユニット・Max Luxによるトリビュートアルバム「 (仮)売野雅勇35周年記念トリビュート・アルバム「砂の果実~Fujiyama Paradise」 」も同時発売されるとのことです!
 
 
 

(2016.9.20)
 
 
 

*発売日が11.16→12.21に延期となりました。
 
*「め組のひと」「夏のクラクション」「禁区」「星屑のステージ」「摩天楼ブルース」「サヨナラは8月のララバイ」「殺意のバカンス」「アクアマリンのままでいて」「想い出のクリフサイドホテル」「Say Yes! 」「六本木純情派」「最後のHoly Night」などの代表曲をAORアレンジでカバーした「真夏のイノセンス/V.A.-売野雅勇Works Covers-」(TKCA-74477、¥2,870+税)が2017年2月22日にリリースされるとのことです。

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