ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#837
ザ・リリーズ/思春記
(2017.6.7発売、UPCY-7327、¥2,315+税)

太田裕美の提供作を含む4thアルバムが初CD化!

 2000年代からの昭和歌謡ブームに乗って復活し、2005年に正式に再結成して以来、活発な活動を続ける奈緒美&真由美の双子のリリーズ。ライブや新作の発表など、現役バリバリの活躍を続けていますが、ここに来て旧譜の復刻もにわかに盛んになってまいりました。
 
 リリーズの場合、2003年に松本隆作詩作品でまとめられたファーストアルバム「小さな恋のメロディー~ザ・リリーズの世界」が、2008年にセカンドアルバム「恋に木枯し」がそれぞれ紙ジャケ化されて以降、10年近く音沙汰がなかったのですけれど、先月には突然サードアルバム「花のささやき」が初復刻( こちらで紹介)。
 
 興奮もさめやらぬまま、続いて78年4月発表の4thアルバム「 思春記 」もついに初復刻! 悲願の初CD化が決定しました!
 
 “思春期を彩る12色のハーモニー!!”というコピーの通り、75年6月のデビューから3年、17才になったリリーズの成長がうかがえるアルバムですが、このアルバムで注目すべきは、同じ渡辺プロでデビュー同期の太田裕美が楽曲提供を行っていること。リリーズのファンのみならず、太田さんのコアなファンからも長年CD化が望まれていたアルバムだったのです。
 
 太田さんといえば、ナベプロ所属ではありますが、74年11月のレコードデビュー以来、売り出してきたイメージは、ピアノ弾き語りで歌謡曲とフォークの中道ライン。ただ、ライブ活動はフォーク歌手も真っ青という本数をこなしてはいたものの、楽曲はシングルもアルバムも松本隆+筒美京平作品ということで、なんちゃってシンガー・ソングライターみたいな感じも強かったんですよね。リスナーも自作自演ではないアーティストをバカにする傾向があった時代でしたから。
 
 一応アルバムには自作品も収録してはいましたが、クオリティはゴールデンコンビと比べるまでもなく…という感じで、ハンドマイクによる「木綿のハンカチーフ」や「赤いハイヒール」の大ヒットも手伝って、フォークブームの終わった77年頃ともなるとナベプロ的なテレビタレントやアイドルのイメージが濃くなっていたのも事実です。
 
 であるからして77年後半から78年にかけて、フォークからニューミュージックへと移ろう時代の太田さんは、シンガー・ソングライターのイメージを取り戻すべく軌道修正しようとしていたのですね。
 過労とのどをつぶして入院したことも功を奏して、曲作りに勤しみ、旧知の吉田拓郎と作曲対決したとでもいうべき企画アルバム「背中あわせのランデブー」を発表。
 その延長線上としてソングライターとしてもリリーズに「春風の中でつかまえて」を書き下ろし、このアルバムにも作品を提供したというワケなのです。
 
 太田さんにとって、それまでも話題作り的な企画もので詩を提供(中山圭以子「そよ風のベンジー/アイ・ラブ・ティファニー」)したことはありましたし、ナベプロつながりでアグネス・チャンにも売り込もうとしたこともあったそうですが、本格的な楽曲提供はこれが初めて。
 ナベプロ側も相乗効果を狙ったのでしょう。マスコミ用の公開レコーディングも行い、“作曲家・太田裕美の誕生”という触れ込みで一大プロモーションを図ったのです。
 
 と、話が背景に広がってしまいましたが、そうしてリリースになったのが、この4thアルバム。例の最新シングル「春風の中でつかまえて/恋あくび」と、一つ前のシングル「初恋スラローム」を含む全12曲で、A面が太田裕美、B面が佐瀬寿一と、それぞれのシングルの作曲者のカラーが中心になった構成となっております。
 
 注目はやっぱりA面で、太田さんが歌唱指導もしたという「春風の中でつかまえて」のほか、太田さんが晴れ着でお出迎えしたことのあるパーシー・フェイスを思わせるタイトルの「夏の日の恋」、そして作曲のみを担当した「高所恐怖症」に加えて、太田さんのファーストアルバム「まごころ」( こちらで紹介)に収録されていた自作品「ひとりごと」のカバーを収録。
 実に4曲が裕美関連となっており、太田さんがリリーズの可憐さを表現したという楽曲を、軽やかに歌うリリーズの爽やかな歌唱が楽しめます。
 
 そのほか「恋あくび」「SILKY RAIN」の2曲は、裕美作品に欠かせない萩田光雄さんの作曲。アレンジも全曲が萩田さんですから、A面ではまさに太田裕美サウンドを展開したといえそう。どちらにしても、太田さんのファンにとって必携のアルバムといえるでしょう。
 
 なお、この後、リリーズは太田さんのセカンドアルバム「短編集」( こちらで紹介)に収録されていた「太陽がいっぱい」をカバーし、シングルとして発表しています。こちらの方は廉価盤ベスト「 ゴールデン☆ベスト」で聴けますので、リリーズの太田さん関連音源をコンプリートしたい場合は、併せてどうぞ。
 
 と、なんだか完全に太田さん寄りになってしまいましたが、余談ついでにもう一つ、裕美ファンに朗報が届いております。
 ご存じの方も多いとは思いますが、NHK-BSプレミアムの「名盤ドキュメント」になんと太田裕美のサードアルバム「 心が風邪をひいた日 」が取り上げられるというのです!
 
 「名盤ドキュメント」といえば、1970~80年代の画期的なコンセプトアルバムに焦点を当て、そのマルチテープをひもときながら、アーティスト本人や関係者が制作過程を深く掘り下げるという人気番組。
 
 2010年に大反響を呼んだ「MASTER TAPE ~荒井由実『ひこうき雲』の秘密を探る~」を発端にシリーズ化したような構成で、これまでに井上陽水の「氷の世界」、はっぴいえんどの「風街ろまん」、佐野元春の「VISITORS」、TM NETWORKの「CAROL」、RCサクセションの「シングル・マン」、矢野顕子の「JAPANESE GIRL」が不定期でオンエア。
 いずれもコアなファンさえ唸らせる出来で大反響を巻き起こしておりますが、太田さんの「心が風邪をひいた日」は2017年の第1弾として、4月26日に放映予定なのだとか。
 
 このアルバムからリアレンジの上シングルカットされ大ヒットした「木綿のハンカチーフ」秘話を中心に、松本さんやユーミン作品の話が繰り広げられるのではないかと思いますが、まさか太田さんのアルバムがコレに取り上げられ、前述の名盤に連なるなんて…これまでの扱われ方を考えてもホント奇跡。リリーズの本作も含め、太田さんの再評価がまた高まることを祈っております。
 
 
 

(2017.4.11)

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