ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#805
太田裕美 SACD(ハイブリッド盤) 2タイトル <ステレオサウンド独占販売>
こけてぃっしゅSSMS-013)・ELEGANCESSMS-014
2016.7.29発売、各¥3,500+税、SACD/CD ハイブリッド盤

松本隆+筒美京平による夏の名盤がSACDに! 

 昨夏の「風街レジェンド 2015 」以来、とどまることを知らない松本隆さんの再評価。
 雑誌やテレビ、ラジオなどメディアでの特集はもとより、過去の著作の復刊に至るまで、当時は職業作家が作る歌謡曲をバカにしていたような媒体までがこぞって持て囃したりする雰囲気もあったりして、松本フリークとしては誇らしいやら戸惑うやら。
 
 むろん歌詩ですから、詩作品のみならず、歌ったアーティストもクローズアップされることも多いのですが、その筆頭としてどの企画にも登場しているのが太田裕美さん。
 代表曲「木綿のハンカチーフ」は、松本さんの出世作でもありますから、当然と言えば当然ですが、ひと頃の扱いを思い返すだに、ファンとして積年の溜飲を下げる出来事のようにも思え、非常に感慨深い次第です。
 
 特にウレシイのが、若い世代を含め「木綿」ぐらいしか知らなかった人が他の作品を聴き始めるきっかけになっていること。
 ヒットチャートを駆け上ったシングルナンバーも多い太田さんですが、立ち位置だったフォークと歌謡曲の中道ラインが示すように、力を入れてきたのはアルバム制作。デビュー時からLPが売れるアルバムアーティストだったことはさほど知られていませんが、シングルA面だけでなく、B面もアルバムも一切手を抜かない作品づくりに定評がありますし、初期の松本隆+筒美京平コンビを中心に隠れた名曲が満載なのです。
 
 太田さんの場合、松本+筒美コンビのアルバム群は91年にCD選書化されて以来、20年以上にわたりロングセラーを続け、近年までほとんどのタイトルが生きていましたし、オーダーメイドファクトリーで企画された紙ジャケアルバムBOX( こちらで紹介)も2008年の実現以来、何度もアンコールプレスされてきましたから、ファンにとって飢餓感は皆無でしたが、今回の松本さんの再評価をきっかけに聴きたいと思った人にとっては、なかなか困難な状況だったのですね。
 
 とはいえボチボチと単品復刻も進んでいまして、2013年にはBlu-spec CD2による名盤復刻シリーズに、ブレイク後のサードアルバムからの3枚、すなわち「心が風邪をひいた日」「手作りの画集」「12ページの詩集」( こちらで紹介)がラインアップ。
 ただ、後が続くかと思いきや、行き渡った感のあるアルバムということもあってか売れ行きが今ひとつだったらしく、太田さんの再発は進まず…。結局シリーズ自体もストップしてしまったのですね。
 
 しかし、そこは現役であり、根強い人気とマニアックなファンを誇る太田さん。復刻の舞台はオーダーメイドファクトリーへと移り、昨年にはファースト&セカンドの「まごころ」「短編集」( こちらで紹介)がめでたく復刻。
 市販3タイトル、通販2タイトルと別チャネルではありますが、デビューからの5枚までがBlu-spec CD2化されていたのです。
 
 という感じで、このまま地道にOMFで続いていくかと思いきや、なんと、ここに来て2タイトルの初SACD(スーパーオーディオCD)ハイブリッド盤化が決定しました!
 
 太田さんのSACDハイブリッド盤というと、デビュー30周年時に出たシングルAB面完全コレクション「 太田裕美 Singles1974~1978 」「 太田裕美 Singles1978~2001 」以来となりますが、今回は、かの高級オーディオ専門誌・ステレオサウンドと、ソニー・ミュージックダイレクトによる独自企画。
 しかも、スーパーバイザーが嶋護さん、マスタリングエンジニアが鈴木浩二さん(Sony Music Studios Tokyo)と、一昨年から昨年にかけて展開され、みずみずしい聖子ボーカルをリアルに再現した音質に話題が沸騰した松田聖子SACDハイブリッド企画( こちらこちらで紹介)を踏襲した感じになるそうですから、期待は高まるばかりです。
 
 今回発売となるのは6枚目のアルバムとなる77年発売の「こけてぃっしゅ」と、1枚とばして8枚目の78年の「エレガンス」。
 ともにオリジナルは夏場のリリースで、全曲を松本+筒美コンビが全曲を手がけたアルバムです。
 
 まず当時の松本さんのマイブームだったひらがな表記の「こけてぃっしゆ」は77年7月1日リリース。オリコン最高3位をマーク、太田さん本人も大のお気に入りというアルバムです。
 オリビア・ニュートン=ジョンの「Sam」にインスパイアされたという「夏風通信」から始まる全10曲は、先行シングル「恋愛遊戯/心象風景」を含みますが、それまでのフォーク路線とは一線を画し、流行のウェスト・コーストサウンドやフュージョンを意識。当時の思いっきり洗練されたポップスが展開されています。
 
 コーラスに山下達郎さんらシュガー・ベイブ人脈の面々も参加したことでも知られ、筒美先生が牽引したサウンド志向アルバムというイメージがありますが、松本さんの詩世界も一変。タイトル通りコケティッシュな少女性を追求し、二股をかけたり、三角関係に悩んだり、それまでの太田さんとは無縁だった女性像が出現しているのです。
 この路線は80年代の松田聖子で完成することになりますが、聖子ちゃんの松本作品がお好きな方は必聴だと思いますぞ。
 ラストには、シングルカットされ大ヒットを記録する「九月の雨」も収録されていますが、シングルとはミックスが異なることですし、今回のSACDではそのへんも聴きどころになるのではないでしょうか。
 
  一方、78年8月1日リリースの「エレガンス」は、ファン一番人気のジャケットが見目麗しい1枚。
 “横浜”と“ディスコという”当時の歌謡界の2大ムーブメントを入れたヒットシングル「ドール」を含む11曲を収録。「こけてぃっしゅ」の後、喉をつぶした太田さんですが、何とかコンディションが戻りつつあった頃にレコーディングされたアルバムです。
 
 こちらは松本さんの詩がとにかく凄くて、松本隆の詩世界表現者としての太田裕美の才能と実力を世に問うた実験作とでも言いますか、 テーマもシチュエーションも多種多様。
 ナウなアーバンリゾートから伝説のレストラン・キャンティ、国際線らしき機内、井の頭近くの安アパート、中禅寺湖の旅館などを舞台に繰り広げられる人間模様。意地悪女に感傷男、自殺に不倫に大地震、四畳半の同棲を宮殿と思い込んだり、不倫相手の家族旅行を見つめたり、まさにカオス状態となっています。
 これに触発されたかのように、筒美先生もポップスから、ロック、フォーク、サンバ、クラシカルな歌謡曲調まで、さまざまなメロディーを書き分けております。もっとも一番スゴイのは、こともなげに歌ってみせる23歳の太田さんですけれど。
 
 という2枚、太田さんのコンディションはけして良くありませんが、偉大なるアレンジャー・萩田光雄さんの見事なアレンジも相まって、サウンド的にも聴きどころ満載の傑作だと思います。
 
 なお、いきなりアルバムは…という人は前述のハイブリッド盤のシングルコレクションや、シングルA面曲に加え、まんべんなくアルバムからも選曲させていただいた4枚組通販BOX「 太田裕美 GIFT BOX 」でお試しを。
 
 ちなみに、白川隆三ディレクターの意向もあって、太田さんのアルバムにはバックミュージシャンのクレジットが入ることはありませんでしたが、ピアノ、キーボードは羽田健太郎さん、ドラムスが田中清司さん、ベースが岡沢章さん、ギターは矢島賢さんまたは水谷公生さんというメンバーでほぼ固定していたとか。
 以前、白川さんにお聞きしたところでは、録る人はバラバラだったようですが、エンジニアは東芝EMIのエンジニアだった行方洋一さんがほとんどの作品を担当、この2作もそのようです。
 
 今回はデジパックジャケット仕様ですが、当時のインナーも縮小で封入されるそうですから、GIRLとLADYのW裕美や、スケボー裕美も堪能できるようで一安心。当然のように完全限定生産、ステレオサウンド独占販売品ですのでご注意ください。聖子の時と同様、一部オーディオショップでも取り扱うようですが、お求めは ステレオサウンドストアのオンライン通販*が確実のようです。
 
 「 こけていっしゅ 」はまだ選書が生きていますが、マスターテープのサウンドを大切にした今回の企画では全然違う音に聴こえるそうなので、これから購入を検討される方はお値段は倍以上ではありますが、ぜひこのSACDハイブリッド盤を。
 選書やBOXの 紙ジャケで持っているという方も、買い増し、買い換え必須ですぞ!
 
 SACDで聴きたい太田さんのアルバムとしては、松本+筒美のオーラスを飾ったロサンジェルス録音盤のAOR「海が泣いている」や、太田さん唯一のマスターサウンドLPも発売されたクラシカルな「思い出を置く 君を置く」など、たくさんありますのでこの企画が続いていくことを願っています!
 
 

(2016.6.8)
 
 
*予約開始は7/1とのことです。
Sony Music Shop

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