君スタ出身の実力派、ついに復刻決定！

　ホリプロが1976年に1億円という大金と社運をかけてスタートさせ、今日まで続く一大オーディションとなったホリプロ・タレントスカウトキャラバン。
　第1回優勝者はご存じ榊原郁恵ちゃんでしたが、当時のアイドルタレントの主流だったカワイコちゃんの概念とはかけ離れたイモねえちゃんぶりに、決戦大会ではゲストの和田アキ子や百恵ちゃんら先輩たちがこぞって反対したのは有名な話です。
 
　ホリプロの場合、タレントの売り出しや扱いにおいて、昔から１つのコマに全部賭けるというようなバクチはやらない主義で、だからこそ後年ドル箱・百恵ちゃんの引退劇があってもコケることがなかったのだそうですが、郁恵ちゃんの場合、ホリプロの命運がかかっているだけに、是が非でもスターにしなければならなかったとのこと。
 
　というワケで、77年度のホリプロの新人は榊原郁恵の一人押し、その他の新人は後回しとなったのですね。
　それでも郁恵ちゃんがすぐに売れたらよかったのですが、女性アイドル同期だった「君こそスターだ！」出身の高田みづえや、「スター誕生！」出身の清水由貴子という鳴り物入りのメンツに当初は水をあけられた状態でしたからね。
 
　で、ホリプロでそのあおりを受けたのが、郁恵ちゃんと同じホリプロの寮で暮らしていた３人。スカウトキャラバン準優勝の荒木由美子、「スター誕生！」の久木田美弥、そして「君こそスターだ！」の三谷晃代だったのです。
 
　特に新人賞レースでは事務所もレコード会社も1人押しが当然。郁恵ちゃんが「賞レースでも何でもホリプロが押すのはスカウト・キャラバン優勝者の私だから、同期の三谷晃代ちゃんや久木田美弥ちゃん、荒木由美子ちゃんには申し訳なくって…」と述懐していたように、事務所の事情的に埋もれざるを得なかったという感じでした。
　とはいっても、3人はそれぞれ、キャラバンでも、スタ誕でも、君スタでも2番手以下のポジションだったワケですし、しょうがないことだったのかもしれませんが…。
 
　そんな彼女たちも時代を味方につけたのか、積年の怨念を晴らすようにマニアックなアイドルのニーズが高い復刻市場ではリベンジを達成。
　荒木由美子の場合は、ポニキャンのMyこれ!チョイスシリーズで「ヴァージン・ロード/渚でクロス」「ユミコ・イン・レイニー・ブルー」「PIN-UP GIRL+シングルコレクション」「L is 」というアルバム全部がいち早くCD化済み。久木田美弥もオーダーメイドファクトリーのアイドル・ミラクルバイブルシリーズ「アイドル・ミラクルバイブルシリーズ　77・78 Girls　久木田美弥・小山セリノ・久我直子 」で全音源がCD化済みです。
 
　そういう意味では、結果的に、シングルB面の完全CD化が2014年まで達成されなかった郁恵ちゃん（こちらで紹介した「ゴールデン☆アイドル 榊原郁恵」）よりも恵まれたといえそうですが、三谷晃代だけは不遇のままで、デビュー曲の「絶交」以外、スルーされたままだったんですよね。
 
　と、前置きが長くなりましたが、ここに来てようやく悲願達成となります。
　ご存じHotwax presents 歌謡曲番外地シリーズによる快挙、全シングルも収録した三谷晃代唯一のアルバム「想い出のファースト・キッス コンプリート・コレクション」がついに復刻、初CD化となるのです！
  
　さて、北海道江別市出身、安定した歌唱力で知られる彼女は、76年11月に東芝EMIよりシングル「絶交／天使の涙は雨になる」でデビュー。
　原盤制作のホリプロ・TOP（東京音楽出版）では、百恵ちゃんを手がけていた川瀬泰雄さんが担当し、作詞は君スタ審査員にして百恵ちゃんの初期を手がけた千家和也さん。作曲はこの年「およげ！たいやきくん」や百恵ちゃんの「パールカラーにゆれて」でナンバー１ヒットを連発した佐瀬寿一さんを起用するなど、ヒットを狙って制作されております。
　近田春夫さんを筆頭に「I Will Follow Him」歌謡の1曲に挙げられることの多いナンバーですが、そのへんのテイストも川瀬さんの嗜好なのかもしれませんね。
 
　それにしてもB面の千家先生の歌詞がスゴくて「人はみんな胸の奥に／悲しみ抱いて／自分だけが不倖せに泣いていると思ってる」とか「人はいつも過ぎたことを／忘れたように／自分だけが迷い子だとかたくなに信じてる」とか、哲学、いや人間の性（サガ）を説いていることに驚きます。何ゆえに彼女に歌わせたのか…そのへん、橋本淳さんの岡崎友紀が好きだという方にぜひ聴いていただきたいです。
 
　第2弾「友達の恋人／転校」も同様の布陣で、元気はつらつ学園ポップス。ルックスも含め、なんとなく岩崎宏美をもっと明るくしたラインを追っかけているような感じがありますが、感情を込められる歌い方ができるだけにちょっと濃ゆくて昭和40年代的な古さを感じるのも事実。また、時期的にもホリプロではこの時期プッシュの久木田美弥デビューに隠れた感じでしょうか。
 
　続く第3弾「ひい・ふう・みい／あいつ」では、高田みづえ作品で注目された島武実さんを作詞に採用。作曲はマギーメイの実川俊さんのコンビに変更。なんだか、みづえ路線を意識したような和風なテイストで頑張りました。
　しかしホリプロではやっぱり4番手で、荒木由美子のデビューに押されたように露出はほとんどなかったような印象です。B面はソウル＆ディスコ歌謡な感じでめっちゃかっこいんですけどね。
 
　そして第4弾。オールデイズ風になったラストシングル「想い出のファースト・キッス／ボーイ・フレンド」は、当時ホリプロに所属していた浜田省吾が作詞作曲。ただ、ハマショーも全然売れてない頃でしたので、話題に上ることはありませんでした。
　なお、これは川瀬さんがハマショーの愛奴時代を担当していたつながりによるもので、百恵ちゃんはいわずもがな、池田ひろ子にしても能勢慶子にしても、川瀬さんが手がけたホリプロのアイドルがこぞってハマショー作品を歌っているのはそういう経緯なのでしょう。
　昔からこの2曲のCD化を切望してたハマショーのコレクターはとても多かったように思っていますので、今回、その方面の皆さんにまで告知が行き届き、三谷晃代40年ぶりの晴れ舞台となることを願っております。
 
　というこれら4枚のシングル8曲に、アルバム用のオリジナル「恋は1/4オンス」「七月のバレンタイン」「ニャンコの書いたラブレター」「夏の浜辺」を加えた12曲。押さえておこうか迷ってるいうアイドル好きの方でも、ボーカルものが好きな方なら問題なく楽しめる感じなのできっと大丈夫ではないでしょうか。
 
　なお、Hotwax presents 歌謡曲番外地シリーズとしては、シリア・ポールや高橋基子さんが在籍していたモコ・ビーバー・オリーブの傑作を完全コンプリートコレクションとして復刻した「忘れたいのに+7 コンプリート・コレクション 」も同時発売だそうです。