ステージ復活をきっかけに10年ぶり単品で復刻！

　今月、東京は新宿2丁目のゲイクラブ・AiSOTOPE LOUNGEで行われたイベント「keiZiro presents 新宿おとあそび No.3」で、35年ぶりのステージ復活を遂げた金井夕子さん。
　初期のアレンジャー・船山基紀さんや、後期の提供者・山口美央子さんらが見守る中、「スリランカ慕情」「走れウサギ」「チャイナ ローズ」「オリエンタル ムーン」「パステル ラヴ」「サマープレイスサマーラヴ」の6曲を往時と変わらぬ歌唱で披露したそうですが、なんとこのタイミングでオリジナルアルバムの方も久しぶりの再発が決定しました！
 
 　すなわち「 Feeling Lady【UHQCD】 」「 invitation【UHQCD】 」「 CHINA ROSE【UHQCD】 」「 ecran【UHQCD】 」の4作に、シングル曲などアルバム未収録のナンバーで構成した「 Singles and more～アルバム未収録全音源集～【UHQCD】 」を加えた全5タイトル。高音質のUHQCD仕様で堂々の登場です。
 
　夕子さんのオリアル復刻というとBOXブームに沸いた2007年、ポニキャン・オニピー発で大好評を博した「ぼくらのベスト」シリーズの一環として4枚組BOX「アナログ・アルバム完全復刻パッケージ」（ こちらで紹介）が登場。LP収録曲のほかシングル曲他未発表バージョンも含むレア音源満載で、長らく飢餓状態にあったファンの溜飲を下げさせました。
 
　さらに、翌2008年には、これまたオニピー発のシングルコレクション付きオリアル復刻企画「Myこれ！チョイス」シリーズに、昔から作家陣由来で評価が高いサードアルバム「 Myこれ!チョイス 33 チャイナ ローズ+シングルコレクション 」（解説を担当させていただいております）がラインアップに加わりました。
　このアルバムだけは今も聴けますが、BOXは廃盤のため、ボーカリスト・金井夕子の再評価によって全アルバムを聴きたくなっても、おいそれとは入手できない状態だったのですね。そんな中、今回のリリースですので、底知れぬ金井夕子の埋蔵量を再確認できるのはもとより、これから現役のボーカリストとして本格的に活動再開する際の後押しにもなるのではないかと思っています。
 
　「スター誕生！」出身につき、アイドル枠に入れられてしまう夕子さんですが、デビュー同期の石野真子に代表される番組の正統派ラインではなく、76年の浦部雅美や77年の神田広美に続く実力派ボーカリストのライン。それは、予選を含め2度敗退した後、逸材ぶりを惜しまれシード権を得ての決戦大会再出場でスカウト札を勝ち取ったことからも分かるというものでしょう。
 
　キャニオン・レコードの渡辺有三プロデューサーのもと、尾崎亜美三部作でニューミュージック路線を進んだ夕子さんですが、この78年は、庄野真代、大橋純子、中原理恵といった面々が、いずれもニューミュージックっぽい世界観ではあるもののシンガー・ソングライターではなくボーカリストとして次々にブレイクを果たしていった年ですから、まさに時代のトレンドを行く存在として期待が高かったのは確かです。
 
　しっとり落ち着いたアルトの美声を武器にしたデビュー曲「パステル ラヴ」の評判はとても良く、多くの人が売れそうな予感を胸に抱いたと思います。毎度申しておりますが、デビュー当日、78年6月25日の「TVジョッキー 日曜大行進」の生放送で、司会の土居まさるさんに「デビュー日にこの番組に出たコは、みんな売れるんだよ」と言われ、はにかみながら頷いた夕子さんを思い出しますが、もっと前に出る性格だったら成果は違っていたのかもしれません。
　あと、千昌夫や新沼謙治の演歌イメージが強い第一プロ所属というのも運がなかったのかも。レコード会社が同じで夕子さんの轍をたどった岩崎良美さんしかり、事務所が同じで夕子さんの轍をたどった井上望さんや松本典子さんしかり…。
 
　と、どうしても繰り言になっていましますが、アルバムはいずれも名盤、名唱、ハズレなしのクオリティ。
　まず、1978年11月に発表されたファースト「 Feeling Lady【UHQCD】 」は、メインライターの亜美ちゃんをはじめ、丸山圭子、庄野真代という女性ＮＭ勢による競演。「パステル ラヴ」と「ジャストフィーリング」（コーラスの入った別バージョン）というシングルのイメージを発展させた、さわやかな世界が繰り広げられています。
 
　結局は名曲だけど地味すぎたシングル第3弾「午前0時のヒロイン」を最後に亜美ちゃんの手を離れ、2年目は筒美京平先生がシングル三部作は手がけることになりますが、79年6月発表のセカンド「 invitation【UHQCD】 」は、Ａ面が松本隆＋筒美京平というゴールデンコンビ、Ｂ面が山川啓介や伊集院静ら＋松任谷正隆作品という構成。先行シングル「ラスト ワルツ インブルー」をはじめ、ちょっと大人っぽいAOR歌謡がたっぷりで、筒美フリークも必携のアイテムではないでしょうか。
 
　79年12月のサード「 CHINA ROSE【UHQCD】 」は、尾﨑亜美作品から松本＋筒美コンビ、本人作詞やYMO参加作品まで、当時流行のエキゾチック歌謡やテクノ歌謡も含む集大成的なアルバム。YMOブームを背景に後にシングルカットされるタイトル曲をはじめ、ヨシリンの「月の浜辺」の原曲「マヤマヤ ビーチ」など、バラエティーに富んでいます。テクノ的要素もそんなに前面に出ていないし、初期の夕子ちゃんが好きだという人も、さほど抵抗がないと思います。
 
　オリアルラストは81年2月リリース、近田春夫さんはじめ各誌のLP評でこぞって絶賛された「 ecran【UHQCD】 」。
　ジャケもスゴかったし、シングル「可愛い女と呼ばないで」を歌う姿は強烈でしたが、引き続きの亜美作品も入っていますし、テクノ・シティ・ポップスという趣の名盤でしょう。
 
　そして今回、新たに編集されるのが「 Singles and more～アルバム未収録全音源集～【UHQCD】 」。BOXでは各アルバムに振り分けられていましたが、今回は1枚にまとめられています。
　「パーフェクト ゲーム」「ジャストフィーリング」「午前0時のヒロイン／ラスト シーン」「Loving You」「ロックンロール・グッバイ」「スリランカ慕情」「Wait My Darling ／ハートブレーカーのために」「星と水の物語／とけいくメモリー」といったアルバムとは違うバージョンやアルバム未収録のシングル曲を網羅。
　さらには、未発表音源として2007年のBOXに初収録された「Wait My Darling(Single Long Version) 」や、「テクノ歌謡」のコンピ盤に収録されバージョン違いが発覚した「走れウサギ(Ver.0)」も入るそうです。
　ちなみに糸井重里さん作詩の「走れウサギ」はシングルB面曲「ハートブレーカーのために」を改詩したもので、後に同じく細野さんの愛したコシミハルさんがカバーしています。
 
　という10年ぶりのアルバム単品復刻。これをきっかけにまた新たな再評価が進み、ボーカリスト・金井夕子の本格的な活動再開への後押しになればと願っています。
 
 
 

＊iTunes（「Feeling Lady - 金井夕子」「invitation - 金井夕子」「CHINA ROSE - 金井夕子」「ecran - 金井夕子」「Singles and more~アルバム未収録全音源集~ - 金井夕子」）ほか、通常の音楽配信もスタートしています。