筒美京平先生、祝40周年ソロ・ワークス全集！
それが、コロムビア、ビクター、キング、ソニー、東芝のレコードメーカー５社共同企画「筒美京平ソロ・ワークス・コレクション」シリーズ。4月26日一斉発売となっております。
先生のソロ・ワークスは以前からちょこちょこと復刻されたり、Love Sounds Styleシリーズに一部収録されたり…かいつまんで聴くことはできていましたが、これほど一堂にそろうとは！
何だか30周年の時、CD屋で感激したことをを思い出します…。ワタシ、全部買いましたが、いつまでこの筒美コーナーがあるか、しょっちゅうチェックしてましたもん。
で今回は、一部スキャットやコーラスは入りますけど、いずれもインストゥルメンタルでして、いわゆるイージーリスニングや歌のない歌謡曲と呼ばれる部類の音楽。
だからと言ってバカにしちゃいけません。先生の仕掛けたっぷりのアレンジや、独自の解釈によるスリリングな演奏が十二分に堪能できるのですぞ！
コロムビア編「 筒美京平ソロ・ワークス・コレクション-コロムビア編~筒美京平作品集・アンド・モア
」は、当初アナウンスされたサブ・タイトルには“筒美京平作品集アンド・モア”とありましたがこれは筒美作品以外っていう意味で、よくある秘蔵音源をプラスしたとものではなかったようです（注・ボーナストラック「ガール・フレンド」が収録されています）。既発の３枚のアルバムをそのまま収録した２枚組となっておりまして、まずは「ヒットメーカー・二つの星」（69年）。これは文字通り当時ライバル視されていた鈴木邦彦との協演によるもので、例えば鈴木さんの曲「愛の奇跡」で筒美先生がチェンバロを弾いたりと、お互いの曲で協演しています。このへんがモアってとこでしょう。
次に収録されている「ヘッドライト」（70年）は「ブルー・ライト・ヨコハマ」「フランス人のように」などの筒美作品集、そして「ヒット！ヒット！ヒット！」（70年）は、「東京－パリ」以外は「花のように」「白い蝶のサンバ」「いいじゃないの幸せならば」といった他の作曲家の作品を集めたもの。
いずれも筒美先生が指揮をとるオーケストラによる歌のない歌謡曲といった趣です。いかにも昭和40年代のコロムビア、という雰囲気なのは気のせいでしょうかね？
ビクター編はなんと２タイトルです。
まず「 筒美京平ソロ・ワークス・コレクション-ビクター編
」は、「16チャンネル方式によるイージーリスニング／デラックス・アルバム～筒美京平ヒットオリジナル・サウンド」（70年）と、「驚異のＣＤ４サウンド／栄光への脱出」（72年）。いずれもタイトルから分かるように、オーディオファン向けと言えるもので、前者は「ブルーライト・ヨコハマ／明日より永遠に」「今日からあなたと」「涙の中を歩いてる」など、当時一番のヒットを連発していたいしだあゆみのヒット曲を中心に、ひと足お先にCD化された「つかのまのしあわせ」といったオリジナル、ザ・ピーナッツに書いた「冷たい舗道」も収録。演奏は筒美京平とそのグランド・ストリングスとクレジットされています。後者はバカラックの書いた「遙かなる影」、キャロル・キング「君の友だち」というポピュラーヒットを筒美先生が手がけたものを抜粋して収録。このLPは売られていましたけど、ワタシとしては昔懐かし４chステレオの特典レコードを思い出しますねえ。ウチの居間にもお目見えしたでっかいステレオからも、よく流れていましたっけ。あの大きな家具調スピーカーが４つですもんね。
そしてビクターと言えばDR.ドラゴン先生で、今回「 THE BIRTH OF A DRAGON+4
」の再CD化が実現。おなじみの「セクシー・バス・ストップ」「ハッスル・ジェット」「カリブの夢」など70年代半ばのディスコサウンドが楽しめます。初期のヒロリンなんかがお好きな人なら、思わずニヤリのお楽しみが満載です。「THE BIRTH OF A DRAGON」は92年のCD化盤より3曲追加となり、非売品音源を含むボーナストラック4曲が収録されます。
キング編も２タイトル。94年にはコモエスタ八重樫さん監修のソロ・ワークス再編集ベスト「筒美京平 I～TOKYO SOFT VIBRATION」と「筒美京平 II～BACHARACH MEET THE BEATLES」が出ておりましたが、今回はその完全版といった内容です。
まず2枚組のポップな「 筒美京平ソロ・ワークス・コレクション-キング編~ポップ・スタイル
」は、童謡名曲を集めたソロ１作目にして初ＣＤ化となる「ピアノが歌う幼い日」（68年）と、件のCDでまもとめられていたチェンバロ・デラックス三部作「恋の季節」（68年）、「七色のしあわせ」（68年）、「あの日の渚で…」（69年）を完全収録。童謡は「七つの子」「浜辺の歌」「赤とんぼ」など選ばれてる曲自体、筒美先生のルーツとも言える心に響くメロディーばかり。一方チェンバロ・デラックスは、やはり昭和40年半ばの歌謡曲やポピュラーソングが満載。「恋の季節」「夕月」「愛のさざなみ」をはじめ「スカボロー・フェア」「恋はみずいろ」など、お酒を飲みながら聴いてみたい雰囲気です。
そして1枚もののモダンな「 筒美京平ソロ・ワークス・コレクション-キング編~モダン・スタイル
」は、そもそもは「バカラックがビートルズに逢った時」（71年）に2曲プラスした前述のCD「筒美京平 II～BACHARACH MEET THE BEATLES」の再発。おなじみのビートルズナンバーを、バカラックがアレンジしたらどうなるか…そんな試みが繰り広げられております。ワタシはここ10年ほどずーっと愛聴していますけど、聴く度に新たな発見がある素敵な１枚です。
ソニー編「 筒美京平ソロ・ワークス・コレクション-ソニーミュージック編-
」は１枚もので、「筒美京平の響」（72年）と「青春のハーモニー～未来からきた手紙～」（72年）。先生はレコード大賞を受賞した71年から、快進撃を続けますが、その希代のメロディ・メーカー（先生はヒット・メーカーにこだわっておられますが、ワタシはメロディ・メーカーの部分があってこそだと思ってます）の躍動が存分に味わえます。
筒美京平オーケストラによる前者は、「また逢う日まで」「さすらいの天使」「雨のエアポート」「お世話になりました」「誰も知らない」「雨がやんだら」「真夏の出来事」「17才」「夜が明けて」「さらば恋人」など、すべてが71年～72年にチャートを賑わせた新しいヒット曲ばかり。職業作家時代とはいえ、こんなに音楽界を席巻した人はいませんよね。しかも長期にわたって。
後者は、シンシアのLP「早春のハーモニー」で歌入りが聴ける「ひとりごと」や青山一也の「幸福ですか」をはじめ、このアルバムのための書き下ろしも多数。「結婚しようよ」「愛するハーモニー」といった筒美先生以外の作品も入ってます。
演奏は、ワタシも大好きな筒美京平とサウンド・ナウ・オーケストラ。しかし、このオリジナルのジャケットはオシャレでした。今見ても、ソニーのセンスは群を抜いてますね。
筒美先生の手によるモノではありませんが、ワタシ今でもソニーから出た新３人娘のインストLP「哀愁のページ／虹をわたって」を愛聴してるんですけど、メロディーや曲構成だけを聴いても、筒美作品の素晴らしさは他の２人の曲とは比べものになりません。
というわけで、ソニー編はシリーズ中、ノリにノッてる筒美先生の手腕を最も鑑賞できる一枚ではないでしょうか。
東芝編「 筒美京平ソロ・ワークス・コレクション-東芝EMI編
」は、過去に発売されていた２作をそのまま収めたスタイル。初CD化となる「ヒット・ピアノ・タッチ」（69年）は、「泪の中を歩いてる」「くれないホテル」「ギターのような女の子」など自作曲から、「夜明けのスキャット」「白いブランコ」「恋の奴隷」など他の作家の作品まで全12曲を、先生自身の大胆なアレンジとピアノ演奏で。
もう一枚は、電子音楽イン・ジャパンシリーズで復刻実績のある「Hit Machine～筒美京平の世界」（76年）。シェリーの歌でも知られる「カリビアン・ドリーム」や、ジャック・ダイアモンド名義の「セクシー・バス・ストップ」などの自作曲をはじめ、ブルー・マジックの「マジック・オブ・ザ・ブルー」など全10曲、オーディオマニアも黙らせるフュージョン＆ディスコの決定版です。和を奏でる黎明期シンセの音が何とも郷愁を誘います。
ワタシとしては東芝盤では、洋楽ヒットで綴る「ダイナミック・ヤング・ヒット・デラックス」（71年）や「スペクタル・サウンド・バイ・スペシャル・リクエスト」（73年）が是非聴きたい！ 追加リリースを待ちたいものです。
いかがでしょう、充実の40周年記念企画。どうしても70年前後の発表と年代が偏ってしまい、同じ曲の別バージョンがかなりの数にのぼりますけど、それは世間の流行と先生が71年から超売れっ子になってしまったせいですねえ。
あのハードスケジュールで、幾多もの名曲を生み出した先生ですが、73年あたりのソロ・ワークスがあれば、もっとスゴかったでしょうね。後世に遺す文化財として、ぜひ一家に全タイトルを揃えてみては。
また、シリーズではありませんが、5月25日には筒美先生も登場する5枚組DVDボックス「 HIT SONG MAKERS 栄光のJ-POP伝説 [DVDエディション]
」も発売になります。これは05年、BSフジで放送された番組を新たなDVDエディションとして商品化したもの。数々の名曲誕生秘話となかなかスポットが当てられることのなかった作曲家をクローズアップ、本人インタビューはもちろん、ゲストコメント、さらには撮り降ろしのライブ映像までを綴った名盤組です。
日本民間放送連盟賞のテレビエンターテインメント部門・最優秀賞も受賞。今回収録されるのは宮川泰、すぎやまこういち、筒美京平、鈴木邦彦、村井邦彦の5人。
筒美先生の放送分には太田裕美、いしだあゆみ（なんと「絵本の中で」を熱唱！）も出演しています。お値段は23,100円と張りますけど、この際、家宝に加えたいDVDボックスですね。
と言いつつ、最後に繰り言をひとつ。ソロ・ワークスも素晴らしいですけど、声という楽器にぴったり合った音符を綴ることができる先生の手腕は、やっぱ歌モノでこそ発揮されると思うのですよ。
30周年の際、計8枚のBOX「HIT STORY」がソニーからの発売だったせいか、「筒美京平ウルトラ・ベスト・トラックス」シリーズは20タイトルもあって各社激レア音源も収録されてたのに、結局ソニー編は出なかったのです。
まあ、あれ以来、BOXなんかでシンシアや太田裕美の筒美作品は完全復刻したし、ゴル☆ベスやアイドル・ミラクルバイブルで「筒美京平を歌う」がシリーズ化されたり、天地真理、優雅、朝丘雪路、坂本スミ子、佐東由梨、沢田玉恵なんかは全曲CD化されましたので文句はないのですが…その他ソニーの激レアものはほとんど日の目を見ないんですよね。
この際、10年遅れのソフトロック・ドライヴィンのビクター編みたいに、時を超えてウルトラ・ベスト・トラックスのソニー編が出ないかしらん…。そう思い続けてる人、かなりの数に上ると思うんですよ。どうでしょ？ まず手始めに「南沙織ヒット全曲集」（74年版）から…。
（2006.3.1)
