ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#1255
小坂明子/ゴールデン☆ベスト
(2025.9.24発売、WPCL-20037、¥2,200<税込>)

14年ぶり、ワーナー時代のシングル・コンプリート!

 昨年から活発なリリースが続いているワーナーの「ゴールデン☆ベスト」シリーズ。
 第1弾6タイトル( こちらで紹介)を皮切りに、第2弾3タイトル( こちらで紹介)、第3弾3タイトル( こちらで紹介)、第4弾5タイトル( こちらで紹介)と紹介してきましたが、第6弾4タイトル、第7弾4タイトルは食指が伸びなかったもので、リクエストをいただきながらスルーしてしまい、相すみませんでした。
 しかし、第8弾3タイトル「 ゴールデン☆ベスト 城之内ミサ」「 ゴールデン☆ベスト 小坂明子」「 ゴールデン☆ベスト 沢田知可子」は見過ごせません! 小坂明子さんがラインアップされているのですからね。
 
 現在は、マルチな創作活動の傍ら後進の育成にも力を注ぐ音楽家というイメージが強いですが、当時の小坂さんといえば、弱冠16歳の現役女子高生にしてヤマハ・ポプコンと世界歌謡祭でWグランプリに輝き、彗星のごとくデビューした天才少女。
 ピアノ弾き語りもさることながら、ファルセットを駆使した美声も鮮烈だった自作のデビュー曲「あなた」は、1973年12月にワーナー・パイオニアから発売されるやいなや、あっという間にミリオンセラーを記録。200万枚を超す国民的大ヒットとなり、今日まで聴き継がれ、歌い継がれているのはご存じの通りです。
 
 出自をひもとけば、関西の音楽シーンを支えた小坂務さんの娘というサラブレッド。育ちの良い天才には違いないけれど、幅広い支持を集めたのは、ツンとおすまししたご令嬢タイプではなく、ぽっちゃりふくよか、笑顔がチャーミングな女の子だったことでしょう。芸能界ずれしているようには見えない気さくで初々しいキャラクターが、歌声とともに老若男女に愛されたんですよね。
 ヤマハは、歌謡曲ともフォークとも違う“ラブ・フォーク”というジャンルで売り出しましたが、当時は花の中3トリオやフィンガー5などミドルティーンアイドルの全盛期ということもあり、アイドル寄りの人気も博したアッコちゃん。
 その一方で、お父さんとのジョイント「パパとアッコのコンサート」のように文部省やPTA推薦がありそうな健全なイメージもありました。
 そういうことからNHK「レッツゴーヤング」の司会進行役の1人にも抜擢されたのでしょう。ずうとるびのメンバーたちにイジられ、はにかみつつも一生懸命に頑張っていた姿を思い出しますが、実際は「あなた」が売れすぎたせいで活動の幅が広げられず、ワーナー・パイオニア時代は苦悩の連続だったといいます。
 
 結局はヤマハからオールスタッフ、バード企画へと事務所は変わりつつ、ワーナーには77年までの約4年間在籍。シングル8枚、アルバム4枚をリリースしていますが、そうした背景も関係してか、ワーナー時代のベストというとレコード時代には皆無だったのですね。
 CD時代になってからも進行は遅く、本家ワーナーで編まれたのは2005年の「究極のベスト」が初。といっても、これはシングルA面8曲+1曲という消化不良のミニベストで、シングルAB面のコンプリートは2011年の「小坂明子 スーパーベスト・コレクション」まで待たねばなりませんでした。しかし、それもワーナー純正ではあるものの販売チャネルの違う廉価商品(とはいえブックレットデザインも良くレコードデータも掲載した好クオリティ)でしたので、一般のCDショップで買えるCDとしては今回のG☆Bが初。まさに待望のコンプリートベストといえるんじゃないでしょうか。
 
 今回の 「 ゴールデン☆ベスト 小坂明子」の収録曲は全20曲で、まず「あなた/青春の愛」「もう一度/ふたりだけの世界」「丘の上の教会/最後のラブレター」「愛する人のために/あなたの街」「あこがれ/ごめんなさい」「ビートルズをおぼえていますか/赤い涙」「ピアニッシモのかなしみ/またいつか」「今だから/トワイライト神戸」という8枚のシングル全曲を網羅。
 そして4枚のアルバムから1曲ずつ、すなわち「小坂明子の世界」からは「あなた(Album Version)」、「愛のメルヘン」から「プラタナスの丘」、「ひとりごと」から「手のひらの海」、「海とショパンとバーボンと」からタイトル曲がセレクトされております。
 欲を言えば、 アメリカのジャズ・フルート奏者、ハービー・マンとの共演盤シングル「あなた( I Wish You Were Here With Me )」もワーナーでしたので、ぜひ追加収録してほしかったところです。
 
 さて、グリコチョコレートのCMの印象も強かったせいか、アッコちゃんの歌には、チッチとサリーのおはなしのような、ほのぼのとしたイメージがありますが、実際はバラエティーに富んだ作品を書き分けられる才能の持ち主。
 それは後々、松田聖子や中森明菜から、ももいろクローバーZまでに提供した楽曲群が証明しておりますが、このベストの中で感じられるのが、3枚目と4枚目のシングルA面。
 前者が乙女チックなテーマ設定でサラリと軽い「丘の上の教会」で、後者がシリアスな純愛路線でヘビーな「愛する人のために」(シングルはヤマハだったので林哲司アレンジ!)なのですが、歌唱スタイルも含め、いわばチッチとサリーVS愛と誠、というべきトレンド感もあるコントラストで、アッコちゃんのレンジの広さを証明しております。
 実はヤマハともどっちを先に出すかでかなり揉めたそうで、ご本人は「あなた」のイメージを払拭させる思いで「愛する人のために」で勝負したかったとのこと。実際、この曲の方が女子中高生を中心に広く支持されロングヒットとなりましたので(シングルは「あなた」以外では唯一価格改訂版がプレスされているほど)、先に出ていれば、また違った展開があったはずです。
 
 他にも、真骨頂とも言える異色作「ビートルズをおぼえていますか」や、レッツヤンのエンディングテーマだった「またいつか」といった自作品はもとより、ワーナー時代のラストシングルにしてバリー・マニロウ「歌の贈り物」のカバー「今だから」(日本語詞は同じ事務所だったハイ・ファイ・セットの大川茂さん)など佳曲が多いので、ぜひこの機会にお聴きください。
 
 なお、ワーナー時代のアルバム4作は、ソニーのオーダーメイドファクトリーで紙ジャケBOX「小坂明子/オリジナルアルバム・コレクション」( こちらで紹介、インタビュー解説を担当しております)として復刻されていますので、G☆Bでシングルを満喫した後は、ぜひオリアルへとお進みいただければと思います。
 
 なんてったって、アッコちゃんの成功がなければ、小坂明子フォロワーとしてデビューした太田裕美さんの弾き語り路線もなかったかもしれませんし、岩崎宏美さんが「あなた」でスタ誕を受験し合格することもなかったのですからね。
 もっといえば、ヤマハのポプコンも続かず、中島みゆきサンをはじめポプコン出身シンガー・ソングライターの多くが今のような形で世に出ることはなく、日本のポピュラー音楽史は変わっていたといえるでしょうから。
 

(2025.8.1)

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