ナツメロ喫茶店

 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#1268
マコト・ハイランド・バンド/Injection
(2026.3.18発売、MHCL-31263、¥3,080<税込>) *「日本シンセサイザー音楽の曙」シリーズ

太田裕美ファンも必聴!白川隆三が手がけた自信作!

 このほどソニーミュージックがスタートさせた新シリーズ「日本シンセサイザー音楽の曙」。
 1970年代、日本におけるシンセサイザー音楽黎明期の試行錯誤を記録したアルバムの中から、未CD化で現在入手困難となっている貴重作を中心に復刻する企画だそうで、かの松武秀樹さんが全体監修を担当。3月に4タイトルのリリースが決定していますが、この中に鬼才・矢野誠さんのプロジェクトであるマコト・ハイランド・バンドが79年に発表したテクノ・ディスコ・アルバム「 INJECTION」がラインアップされております!
 
 実はこのアルバム、2011年にオーダーメイドファクトリーの候補( こちらで紹介)に挙がるも、ターゲットと合致しなかったせいか、その時は全く条件をクリアできず復刻が実現しなかったタイトル。
 ただ、時代とともに再評価は進み、19年には、アルバムのリードシングルだった「 ダンシン」がオーダーメイド・ヴァイナルでヴァイナル化。アルバムもタイミング待ちかなと思ってから、だいぶ時間が経ちましたが、今回待望の初CD化となります。
 
 “テクニカル・ポップの流れを変えるニュー・サウンド!! MR.コンピューターとハートフルなディスコミュージックがドッキング”というコピーでも分かるように、テクノが当たり前になる時代の先駆けといえるアルバム。
 チャイコフスキーの交響曲第6番をはじめ、ロシア民謡の「コロブチカ」、ジョナサン・リッチマンとモダン・ラバーズの珍曲「エジプシャン・レゲエ」などを引用したり、コール・ポーターのスタンダード「あなたはしっかり私のもの」をディスコカバーしたり、全9曲、どれもこれも一筋縄ではいかないナンバーがテンコ盛りです。
 当時はYMOがデビューしたばかりで、彼らもアルバムが全米発売されておらず、日本でもまだ一部の人にしか支持されていなかった頃でしたので、ほとんど売れず…まさに幻の作品。今回のリイシューでは、矢野さんと松武さんの特別対談も掲載されるそうです。
 
 このサイトがピックアップするアルバムとしては異質なタイトルであることは承知しておりますが、矢野誠さんといえば、なんてったって筒美京平先生が70年代に大のお気に入りだったアレンジャー。
 筒美作品では、フレンチやソフトロックっぽいお洒落サウンドで歌謡曲とは一線を画したいしだあゆみの傑作「ファンタジー」を筆頭に、フォークソングをシンセを使って実験的展開した南沙織の「ヤングのテーマ 夏の感情」、テクノサウンドをブーム前に多用した中原理恵の「夢つれづれ」まで、新しもの好きの先生から絶大な信頼を得たアレンジャーとして知られております。
 
 また矢野顕子ファンにとっては、アッコちゃんのある種狂気をはらんだ才能をメジャーで通用するよう具現化させた人物であるとともに、矢野姓を名乗るようきっかけとなった昔のパートナー。
 「東京は夜の7時」のジャケットが可愛かった風太くんの父君としても知られていますし、アッコちゃんのメジャーデビューは筒美京平作品(ザリバ「或る日」)で誠さんが編曲、そういう縁で2人が結婚する際の証人は筒美先生が務めたことも有名なお話です。
 さらに、風街市民には、松本隆さんとともにオリジナル・ムーンライダーズのメンバー(オルガン担当)だったことでおなじみではないでしょうか。
 
 いずれにしても誠さんの足跡は偉大で、「レコード・コレクターズ」の連載「矢野誠の点と線」に詳しいので、そちらをお読みいただくとして、ウチ的に最も推したいポイントは、このアルバムの担当ディレクター。
 そう、CBS・ソニーで太田裕美さんを担当していた白川隆三さんが手がけたアルバムなのです!
 
 制作には膨大なお金をかけ、レコーディングはニューヨークでも行ったそうですが、実は太田さんのテクノ期への序章はここから始まったと言えるんですよね。
 昔からの裕美ファンにとって、テクノ・ニューウェイブ路線はNYから帰国後、突然降ってわいた感じに思った人がほとんどでしたが、白川さんの嗜好を考えると、実はそうではなかった。太田さんのレンジの広さは、白川さんのレンジの広さと確実にリンクしていたのだと思います。
 そういう観点から言えば、太田さんのアルバムで白川さんが手がけたラストアルバム「I do,You do」という名盤は、精神的にはこの延長線上に位置するものと解釈することも可能でしょう。
 
 さらに、誠さんサイドから太田さんを語る時、忘れてはならないのがチャクラ。そう、テクノ期の太田さんを支えた板倉文さんが、小川美潮ちゃんたちと組んでいたバンドですが、このチャクラの初期をプロデュースしたのが矢野さんであり、ナベプロ所属の彼らにとって渡辺音楽出版サイドのディレクターが太田さんのテクノ期の担当であり、夫君となる福岡智彦さんだったワケですから、やっぱりつながっているワケなのですね。
 正直こじつけ、無理筋の感はありますが、実際、白川さんに取材した際にお聞きしたところ、太田さんのあのアルバムがお好きだという方に、ぜひこのマコト・ハイランド・バンドも聴いてほしいとおっしゃっていたのも事実ですので、あえて記しておくことにします。
 
  実際は太田さんというより、同じく白川さん担当の理恵ちゃんによる「枕詞(ピロー・トーク)/卍ブルース」(ちょうどこのアルバムと同時期に誠さんがアレンジ担当したシングルです)の姉妹サウンドなので、そのへんがお好きな人は必聴ですぞ。
 ちなみに白川さんは、理恵ちゃんのデビュー作でキョージュやユキヒロともつながりがありますし、このアルバムにはユキヒロも参加していますから、もしかしたらYMOとともに、いや先駆けてコンピューターミュージックによるテクノポップに先鞭をつけたアルバム…になっていたかもしれませんね。
 
 そういえば、シングルB面としてリカットされた「ワナワナ……」というと、アパッチの「東京ワナワナ」を思い浮かべるアイドルフリークも少なくないでしょうが、アレも誠さんの作曲。アパッチも、彼女たちのルーツであるレコード企画「ソウルこれっきりですか」から白川さんの担当ですので、太田さんから理恵ちゃん、アパッチまで、いろんなつながりを感じて聴くのも一興かもしれません。
 
 ということで、シリーズの趣旨からいえば邪道の聴き方でしょうけど、白川さんのご意向を鑑み、太田裕美ファンの皆さんにこそお聴きいただきたいという意味で紹介させていただきました。
 
 なお、太田さんが2023年7月にレコーディング済みのデビュー50周年記念曲「星屑ぴあの」(松本隆作詞、筒美京平作曲、船山基紀編曲)も、先に配信をお願いしたいところですが、ご本人の意向でお預けの模様…。いろいろと心配は尽きませんが、太田さんの快復を心からお祈りしつつ、今はただ、まごころの奇跡だけをひたすら信じて待つ次第です。
 
 

(2026.1.21)
Sony Music Shop

Yahoo! JAPAN

  • このサイト内を検索
  • ウェブ全体を検索