大人への歩みを進めてゆく。
そんな様を、生々しく描いた詩たちがありました。
それらはまるで少女自身の胸から
発せられた言葉のように真実味を持ち、
1曲1曲完結していながら、けして断片的ではなく、
まさに、少女から女性へと移ろう成長の記録でした。
みずみずしいそのアルバムは
少女が大人の女性になると同時に閉じられましたが、
歳月を重ねた後、一瞬だけ
新しいページが書き足されたことがありました。
「愛して育てて満ち足りて暮らしていてさえ
生甲斐をひとりしみじみまさぐる日は
あてどない人の心は Deep River
ゆれているの」
まことにあの少女の人生の続きでした。
20から30代へ、1人の人間として成長するために
空白の時間がいかに必要だったか。
そしてそれがいかに豊かであったか。
幸せな毎日でも揺れ動く気持ちがあったことを含め、
以前と同じように、真実味を持って語られていました。
いま、その続きを1ページでもいいからめくってみたいという
願いが叶うことはなくなってしまったけれど、
これからはつたない言葉でも
自分自身の思いを書き足せるような気がしています。
たとえ迷い傷ついたとしても、自身の足取りで
人生を歩み続けることの尊さを、
有馬三恵子という、少女のよき理解者に
まざまざと教えられてきたのですから。
有馬三恵子さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
note:CD「MATURITY」1992.6.21発売
1978年に引退し、もう復帰はないと思われていた91年。突然のカムバックを発表し、NHK紅白歌合戦に13年ぶりに出場した南沙織。
シンシアとして発表した復帰第1弾アルバムでは、声も表現力もブランクを一切感じさせないアダルト・ポップスを展開。この曲がラストを飾りました。デビュー以来、南沙織の世界を構築してきた有馬三恵子+筒美京平コンビによるナンバーですが、やはりシンシアが引退していた13年間の心情を過不足なく物語った詩が秀逸。
むろん筒美メロディーの素晴らしさも大きいですが、南沙織という少女の魅力を形作ったのは有馬三恵子先生にほかなりません。先生の代表作は数あれど、シンシアに書いた一連の作品群の右に出るものはないでしょうね。「17才」から「想い出通り」までの初期、後期の「ゆれる午後」に「Ms.(ミズ)」といったシングルA面もさることながら「魚たちはどこへ」「昨日の街から」「純情」「秋の午後」「私の出発(たびだち)」「いとしい傷」「殉愛」「愛の序曲」「人のあいだ」「さよならにかえて」「シンプル・シティー」といったB面曲やアルバム曲も傑出しています。
70:Deep River/シンシア
69:振子の山羊
68:どんないいこと
67:北駅のソリチュード
66:四季絵巻
65:水の影
64:さよなら夏のリサ
63:東京ではめずらしい四月の雪
62:dreamland
61:時 -forever for ever-
60:でんでん虫
59:TONIGHT
58:心の中のプラネタリウム
57:この国に生まれてよかった
56:風の笛
55:あしたまた会う子供のように
54:いいもんだなァ故郷は
53:車窓
52:最後の一葉
51:僕のお嫁さん
50:今だけの真実