ナツメロ喫茶店/うたノートvol.52


ナツメロ喫茶店

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  こころに残るあのうたを、力をくれるそのうたを、ちょこっと綴っておきました。

vol.52

最後の一葉/太田裕美

(作詩・松本隆/作曲・筒美京平/編曲・萩田光雄 EP「最後の一葉」1976)



 ワシントン・スクエアから西へ、待ち合わせは六番街とブリーカー・ストリートの交差点。約束の時間にはまだ少し間があるから、グリニッチ・ビレッジをそぞろ歩く。

 このあたりの古びた小径は、時の流れを拒むように入り組んでいて、ともすると、もと来た方角がわからなくなる。まさにO・ヘンリの「自分自身とばったり出っくわす」という表現がぴったりなのだ。

 まるで一枚の小さな絵に見えるのは、秋のクレヨンが染めあげたせいだろうか。レンガべいにからまる蔦の枯れ葉も、壁に描かれたと言われてもうなずいてしまうほどだった。

 旧くて静かで美しい。それゆえにもの悲しい。

 ここでなら、あの物語は今でも真実だ。そう確信して、ツイードのボタンを上までとめた。


「ハロー・グッバイ ありがとう青春
 凍える冬に散らない木の葉
 あなたが描いた絵だったんです」



(2011.12.12)

note:EP「最後の一葉」1976.9.21
 CBS・ソニーのお家芸と呼べる文芸路線、太田さんの場合はO・ヘンリで、松本さんの翻案もさすがです。“筋ジストロフィー症患者たちの生命を賭けた絆”を描いた映画「車椅子の青春」制作費募金チャリティーレコードとして発売され、オリコンでは最高5位をマークしています。
 デビュー当時のイメージへと戻したようなピアノ弾き語りで、上質な筒美メロディーとともに、ドラマチックな盛り上がりに圧倒されますが、レコードで弾いているのはハネケンさんだとか。しかし「木綿のハンカチーフ」「赤いハイヒール」に続くシングルがコレだというのも、ディレクターだった白川隆三&原正志両氏の強い意思を感じますね。
 最初は陰鬱な感じがしてあまり好きではなかったのですが、この曲に触発されてO・ヘンリ短編集の文庫を買ったほど惹かれていきました。小説の大久保康雄さんの名訳は今もって大好きです。

◎いまCDで聴くなら… 太田裕美☆GOLDEN BEST


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