ナツメロ喫茶店/うたノートvol.58


ナツメロ喫茶店

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  こころに残るあのうたを、力をくれるそのうたを、ちょこっと綴っておきました。

vol.58

心の中のプラネタリウム/須藤薫

(作詩・田口俊/作曲・杉真理/編曲・松任谷正隆 LP「PLANETARIUM」1983)


 「太田裕美の『恋のハーフムーン』は最高に良いね」
 高2のクラス替えで一緒になったM君と仲良くなったのは、彼のそんな一言からでした。大滝詠一が「A LONG VACATION」の大ヒットで一気にメジャーになった後とはいえ、身近な同級生でそんなことを言う人など皆無だったものですから、親しくなるのに時間はかかりませんでした。

 大滝詠一、山下達郎、杉真理、佐野元春…ポップスの職人たちを尊敬してやまなかった彼との音楽談義は、実に楽しく実りのあるものでした。
 普段は寡黙なM君ですが、ポップスの話となると口調までが「サウンドストリート」の達郎っぽくなって、マエストロたちの作品を入り口に、彼らのルーツである60年代や70年代の洋楽を掘り下げ、さまざまなことを教えてくれたのです。

 そんな中、M君が「キミともあろう人が、あのアルバムをまだ聴いてないなんて信じられない!」と言って貸してくれたのが「AMAZING TOYS」のLP。そう、須藤薫のサードアルバムでした。

 河合夕子のファンということもあり、ギャルコン(Gal's Contemporary Sounds)の一員だった須藤薫のことはよく知っていたし、ユーミンの「SURF&SNOW」や「REINCARNATION」のコーラスも好みでしたが、今思えば本格的な薫ファンになったのは、この日からだったように思います。

 それからは彼女のことを「薫ちゃん」と呼び合い、受験勉強と称して放課後も互いの家に行き来してレコードを聴き合い、いろんな話をしたものです。
 M君が「AMAZING TOYS」を文句のつけようがないポップス史上に残る名盤だと推せば、こちらは薫ちゃんのボーカルの幅の広さが出ているから「PLANETARIUM」の方が傑作だと言い張ったり…。
 結局どちらも譲らず、いつも平行線をたどりましたが、話がバラードに及ぶとM君は決まって「『心の中のプラネタリウム』は『RAINY DAY HELLO』を超えてるよね。ポップスが永遠であることを歌っているから」と言い、それが合図かのように他愛のない綱引きも終わるのでした。

 あれから30年近く経った今も、薫ちゃんの歌を聴くたびに16才だったのに大人びたM君の言葉がよみがえります。そして本当にその通りだと深くうなずき、ポップスという夢の力で一層輝いていた遠い日々を懐かしく思い出します。

 M君とはいつしか音信不通になり、同級生の間でも消息すらつかめなくなってしまったけれど、今日、同じ星空の下で、薫ちゃんのことを偲んでいるような気がします。心の中のプラネタリウムに流れる、この歌を聴きながら。


「耳をすましたら
 忘れたはずの
 歌が聞こえる
 星が奏でるシンフォニー

 心の中のプラネタリウム
 遠い日々の夢が光ってる

 やがて地平が白んできても
 心の星たちよ消えないで」



須藤薫さんのご冥福を心よりお祈りいたします。

(2013.3.4)

note:「PLANETARIUM」1983.3.21発売
 79年、平山三紀のカバーにしてユーミン+筒美京平による「やさしい都会」でデビュー。以来、杉真理をはじめ松任谷由実、大滝詠一、松任谷正隆らの紡ぐポップン・ロールを歌ってきた薫ちゃん。須藤薫という名前に馴染みがない人でも、その歌声はユーミンや聖子の曲のコーラスできっと聴いているはずです。アイドルマニアには志賀真理子がカバーしシングル化した「RAINY DAY HELLO」のオリジナルシンガーと言えば通りがいいでしょうか。
 これはワンダフル・ムーンによって知名度もぐんとアップした頃に発表された4枚目のアルバム(オリコン48位)の収録曲。従来からのアメリカンポップス路線に加え、ちょっと都会的なイメージも打ち出したアルバムのラストを飾っています。美しくはかないのにスケールがでかいこの名バラードを、何度リピートしたことでしょう。カッサンドルみたいなイラストのジャケットも今見るとノスタルジックですよね。
 2007年に紙ジャケット限定盤が再発(完売していましたが2013年3月に再生産されました)。2012年には杉真理&須藤薫としてリリースしたアルバム「恋愛同盟」(ジャケットは本秀康!)でセルフカバーされています。

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