ナツメロ喫茶店/うたノートvol.60


ナツメロ喫茶店

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  こころに残るあのうたを、力をくれるそのうたを、ちょこっと綴っておきました。

vol.60

でんでん虫/氷川きよし

(作詞・阿久悠/作曲、編曲・坂田晃一 CDS「星空の秋子/でんでん虫」2002)


阿久さんが遺してくださった詞の数々は、
やはりそれぞれに特別な意味を持っていて、
あの頃はさほど好きではないと思っていた一節が
何かの拍子に思いがけず口をついて出てきたり、
その時初めて歌詞の持つ大きな意味に気づいたり。

阿久さんはやっぱり先生だったのだと思います。
阿久さんが育てた多くの若き歌手にとっても、
彼らのうたを同世代のうたとして聴いてきた我々にとっても。

その証拠に、阿久さんが流行歌という教科書を使って説いた詞は
学舎で聞いた師の言葉と同じように、ずっとこの胸に生きていて、
卒業してから何年経とうがいまだに
やよ忘るな、やよ励めよ、と言い聞かせてくれるのです。


「派手に生きてみたいけれど
 そうもならなくて
 野暮な日々を 重ねながら
 初心なひとを探す

 ごらんあれを 雨に濡れて
 滑る かたつむり
 俺の姿見てるようで
 ちょっぴり泣けてくるよ

 いそげ いそげ いそげ まいまい
 おまえ でんでん虫よ
 どっこい どっこい 生きているぞ
 こうして」

―阿久悠さんの七回忌によせて―

(2013.8.1)

note:CDS「星空の秋子/でんでん虫」2002.8.21)
演歌界のアイドル・氷川きよし5枚目のシングルにして、オリコン3位をマークした「星空の秋子」。そのカップリングに収録されたのが、この歌です。西田敏行「もしもピアノが弾けたなら」のコンビとしても知られる阿久悠+坂田晃一の巨匠コンビによる作品で、NHKの金曜時代劇「茂七の事件簿 新ふしぎ草紙」エンディングテーマに起用されました。
勇壮なビッグバンドをバックに、坂田さんお得意の流麗メロディーをこぶしをきかせて歌うきよしクン。本当に不思議な魅力を醸し出していますが、何と言っても胸に迫るのは阿久さんの詞。おそらく最晩年のテーマであった日本人としての生き方や命への思いというものが、阿久さん一流の人間くささとともにストレートににじみ出ていると思うのです。
この世に生を受けた限りには、その命を慈しんで生き抜く。その尊さと喜びを、教え続けてくれる…そんなうたのような気がしてなりません。
唯一残念なのはアルバム未収録で、今ではマキシシングルでしか聴けないこと。氷川クンにとっても、歌い続けていれば絶対に代表曲として残っていく作品だと思いますので、このまま埋もらせてしまうには実に惜しいのです。

◎いまCDで聴くなら… 星空の秋子


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