話題の著書とリンクした作品集が登場！

　川添象郎さんといえば、伝説のイタリアンレストラン・キャンティの御曹司、フラメンコギターの名手、ファッションやエンターテインメントを幅広く手がけ、村井邦彦さんのアルファでユーミンやYMOを見出したプロデューサー、風吹ジュンさんの元ご主人などなど…さまざまな肩書きや形容を持つ鬼才として知られる人物。
　ユーミンが氏を評して「出鱈目? それとも啓示? 15歳の私も、六本木の街角で川添さんのマッドなヴァイブスに巻き込まれたひとりです」と語ったように、破天荒で狂気じみたエピソードは枚挙に暇がなく、出自や経歴を含め話題に事欠かない方であることに違いありません。
 
 　メディアを通してその奔放で波瀾万丈なご様子を耳にするたび、まさに戦後ニッポンを体現するようなリベラルの権化的な怪人イメージを持っていましたが、昨年大きな話題を集めた著書「 象の記憶～日本のポップ音楽で世界に衝撃を与えたプロデューサー」を拝読して一新。
　実は戦前の日本人のマインドをそのまま受け継いでいるといいますか、幕末には開国を迫った欧米列強と丁々発止に渡り合い、大東亜戦争では連合国軍を相手に毅然と戦い抜いたスピリットといいますか、そういう意味ではさすが幕末維新の英傑・後藤象二郎の曾孫、旧華族で戦後の国際文化交流に広く貢献した川添浩史の長男という気がします。
　個人的なことをいえば、ルーツが同郷という思い入れも多分にあると思いますが、本を読み読み唸りつつ、氏の手がけた音楽をあらためてたどるなどして、ひとしきり感慨にふけったものでした。
 
　あの本は、かつて「団塊パンチ」に連載されていた「回想録・象の記憶」を加筆の上、ようやっと単行本化したものだそうですが、これのCD版とでもいうべき「 象の音楽 ～世界に衝撃を与えた川添象郎プロデュース作品集～ 」のリリースも決定したとのこと！  
 
　1960年代からの40余年にわたるプロデュース作品を集めた2枚組で、Disc1は“Vocal Side”と題した歌唱作品集、Disc2は“Instrumental Side”というインストゥルメンタル作品集となっています。
 
　Vocal Sideは、69年の伝説のミュージカル「ヘアー」の日本オリジナルキャスト、チェット・フォーチュンとトライブ「アクエリアス（輝く星座）」から、2000年代を代表するヒット、SoulJa feat.青山テルマの「ここにいるよ」＆青山テルマ feat.SoulJa「そばにいるね」までの17曲。
　コロムビア・デノン内で展開したマッシュルームレーベルでは、小坂忠の名曲「機関車」やガロの「学生街の喫茶店」、アルファミュージックの原盤制作音源としてはルネの「ミドリ色の屋根」や雪村いづみ「バラのルムバ」、ハイ・ファイ・セットの「卒業写真」、アルファレコードではサーカス「アメリカン・フィーリング」、ブレッド&バター「あの頃のまま」、吉田美奈子「TORNADO」、いしだあゆみ「おとこたち」など。
 
　Instrumental Sideでは、YMOの「RYDEEN」「BEHIND THE MASK」に加え、深町純やカシオペアのナンバーがずらり。
　YMO関連では細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一のソロや、サポートメンバーだった大村憲司参加のプレイも選曲されており、ボーナストラックとしてご自身の演奏曲も収録されています。
　ブックには、盟友・村井邦彦さんからの寄稿や、音楽評論家・北中正和さんによる楽曲解説も掲載とのことで、そちらの方も楽しみですね。
 
　象郎さんプロデュースの「 ミスリム」など、ユーミン自身の音源がないのが残念ではありますが、それらはプレイリストで補完しましょうか。
 
　そういう意味では、川添象郎プロデュース作品でマイベストなアルバム、伊東ゆかりさんがデノン時代の71年に発表した「LOVE」も外せません。
　村井さんとの共同プロデュース（当時の名義は川添象多郎）ですが、世界に通用するポップスを創るというアルファの真髄が貫かれたとでもいうべきハイセンスなアルバムなのです。
　ジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、エルトン・ジョン、カーペンターズなど最新洋楽ヒットのカバーとオリジナル曲を全編英語で歌唱した、当時としては画期的な作品で、　それまでの日本にはなかった“イージー・リスニング・ハーモニー・サウンド”と呼べるもの。
　90年代のソフトロックブームで再評価されて以来、CD化が繰り返されていますので（ こちらで紹介）、この機会にぜひ併せてお聴きいただければと思います。
 
　なお、時代と文化を創ってきた川添さんならでは、実名やモデルとして出てくる小説もたくさんあります。その中では、なかにし礼さんが新聞小説として発表したTBSの名プロデューサーの一代記「 世界は俺が回してる」、林真理子さんが川添さんの前夫人をモデルにバブル時代の狂乱を描いた「 アッコちゃんの時代」がオススメです。