アルバム25作再発、必聴は松本+筒美の4th!
今年は85年組のデビュー30周年。85年組の女性アイドルで、シンガーとして最も成功したのはやっぱりミポリンこと中山美穂さんですが、今回のアニバーサリーイヤーは大型企画が目白押し。
さすが70〜80年代のキングレコードを代表するアイドル。まず今月にはシングルBOX(こちらで紹介)をリリース。噂に違わず、微に入り細に入り忠実に復刻されたクオリティに、思わずため息が出たことでしたが、次はオリジナル・アルバム・コレクションのリリースがアナウンスされました。
85年のファースト「 「C」
もちろん最新リマスター音源で、帯やブックレット、ジャケットを可能な限りオリジナルに忠実に復刻されるということですが、何と言ってもぐっとお求め安いプレミアムプライスでバラ売りというのがポイントではないでしょうか。
ミポリンの場合、初期のアルバムは89年のゴールドCDを経て、92年に再発されたきり。その後は一切復刻されずにきたワケですからね。
初期のいわゆるアイドル的な頃から、アーティストへと美しく進化した時代まで、OLのカラオケ御用達シンガーみたくなった時期を含め、ミポリンの音楽活動は実に幅広い展開を見せていきましたし、その要所要所でメガヒットを飛ばしてきましたので、それぞれの時代に上質なアルバムぞろいという感じですが、ウチ的に推したいのはやっぱり初期。
なんたってミポリンは、松本隆+筒美京平というゴールデンコンビでデビューを飾ったアイドルですのでね。中でも全曲を松本+筒美コンビが手がけた4thアルバム「 EXOTIQUE
ひもとくとミポリンが14歳で登場したデビュードラマ「毎度おさわがせします」の主題歌は、松本隆+筒美京平コンビによるC-C-B「Romanticが止まらない」で、当初から松本さんはミポリンに詩を提供したかったという逸話が残っておりますが、最初は筒美先生ではなく林哲司さんが予定されていたのだとか。
結局は松本さんが筒美先生を口説き落とし、2人のコンビでデビュー曲「『C』」から「生意気」「BE-BOP-HIGHSCHOOL」という3部作が完成。続く3作を飛ばして、再び「ツイてるねノッてるね」「WAKU WAKUさせて」「『派手!!!』」という3部作でコンビでの楽曲提供は完結しました。
そんなミポリンとゴールデンコンビとのタッグで、集大成といえるのがこの「EXOTIQUE」。86年12月リリース。大ヒットシングル「WAKUWAKUさせて/ハートのスイッチを押して(SWITCH ON)」をフィーチャー、タイトル通り、異国情緒をコンセプトにしたアルバムです。
アレンジは打ち込みでは筒美先生が全幅の信頼を置いた船山基紀さんで、当時最新サウンドとして一世を風靡しようとしていたユーロビートがベース。70年代後半の筒美先生が得意としたエキゾチック歌謡を、80年代後半の流行で刷新したというようなメロディーも流麗だし、ミポリンのまだ青い若さをぶつけた歌唱もとってもフレッシュですが、ここで注目すべきはやっぱり松本さんの詩でしょう。
日本、香港、インドといったアジアから、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ大陸へ、世界を舞台に繰り広げられるのは、古今東西の名画的なラブ・アフェア。それは、シンガポールの船を横目に寝椅子で夕陽を見てた第2弾シングル「生意気」の世界観、すなわち耽美でコケティッシュな処女的娼婦とでもいうべき世界を大きく広げた印象です。
松本さんというと、どうしても太田裕美や松田聖子、斉藤由貴らカマトト系ディーバの印象が強く、乙女チックの権化みたいなプラトニックイメージがありますが、実は妖艶でエロティックな世界もお手のもの。
むろんそこには松本さんならではの品格がありますので見過ごされがちなのですけれど、風街フリークとしては、中原理恵に書いた傑作「夢つれづれ」(こちらで紹介)を頂点に、倒錯的、猟奇的な類いのモノすら大層お得意ではないかと感じていたりしています。
で、このアルバムで松本さんがミポリンに要求しているのは、生娘の舞から始まって、イメージプレイにふけるセレブガール、制服の美少年を誘惑する年増女、カーニバルで欲情する踊り子、生死を見つめガンジス川のボートに横たわる女などを主役にした、10本の映画的な脚本。
「毎度おさわがせします」でのどかを演じたミポリンと、「タクシー・ドライバー」のジョディ・フォスターや「プリティ・ベイビー」のブルック・シールズを重ねて見ていたのかは存じませんが、年増女の情事を懸命に真似ようとするような年端もゆかぬ少女の仕草といいますか、まさにアクトレス・シンガーとしての力量を問うている気がします。
対するミポリンも、少女趣味を持つ紳士の期待に応えるように、かなり際どく迫っているのですね。
松本さんがミポリンに可能性を感じたのは女優としての資質で、中山美穂が歌手本人のビジュアルイメージに沿って楽曲が決まるアイドルではなく、最初かられっきとしたアクトレス・シンガーであったことを見込んでのプロデュースだったように思いますが、その感覚が的確だったことを確認できるアルバムといえるのではないでしょうか。
今思うと、世界を股にかけた詩世界は映画的過ぎて、まるで絵空事のような世界に思う人もいるかもしれませんが、バブリーな時代の感覚では意外とリアルだったりして。例えばその3年前、聖子の「マイアミ午前5時」や「セイシェルの夕陽」など、ため息をつきながらページをめくったグラビアのバカンスですら、普通の女の子が学生旅行で出かけられるようになったワケですしね。
ちょっとかわいくてコネのある女の子なら、金に糸目を付けないスポンサーを見つけるのは造作ないことだった時代、みたいな雰囲気も味わえそうな、今となってはある意味貴重なアルバムといえそうです。
今夏、松本さん45周年のブームで盛り上がった風街フリークの方で未聴の方がいらっしゃいましたら、ぜひこの機会に。特に風街でも裏通りの方がお好きという方なら、気に入ること請け合いです。
(2015.7.24)