オススメ復刻盤「矢野顕子/1980'sライブ Blu-rayセット」


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 ビバ!旧譜の新譜。紙ジャケからBOXまで、ナツメロ復刻盤&再発盤、コンピ盤などのレビューコーナーです。

#566

矢野顕子/1980's 矢野顕子ライブ Blu-rayセット

(2012.8.8発売、MHXL-10、¥10,000)  *Blu-ray Disc 4枚組BOX

*新録入りのライブベストアルバム「荒野の呼び声-東京録音-」(YCCW-10175、¥3,150)も同時発売!

80年代の名作ライブビデオ3タイトルがブルーレイ化!

 この夏の来日でも、ソロリサイタルをはじめ矢野顕子トリオ、森山良子さんとのやもり、上原ひろみさんとのセッション、そして夏フェスやクラブイベントなどなど、ギッシリと精力的なスケジュールが予定されているアッコちゃん。
 CDの方も、ソロアルバムとしては2年半ぶり、近年のライブセレクションによる「 荒野の呼び声 -東京録音- 」の発売もアナウンスされていますが、このタイミングでリイシュー、しかも80年代映像ソフトのブルーレイ化も決定しました。

 それが4枚組ブルーレイBOX「 1980’s 矢野顕子ライブ Blu-rayセット 」! 
 バンドサウンドによる「オーエスオーエス Live 1984」、クラシック歌曲に挑戦した「BROOCH」、ピアノ弾き語りの「出前コンサート」という三者三様の3枚に、幻のプロモーションビデオ2曲収録のボーナスディスクを加えた4枚組です。

 前述したように、今もさまざまなスタイルのライブを行っているアッコちゃんですし、どこを切っても矢野顕子、何をやっても矢野顕子なのは周知の事実でしょうが、この3枚のバリエーションをあらためて見れば、天才的な消化力を再認識できることでしょう。

 ボーナスディスク以外は既にDVD化されておりますし、古い映像だけにどこまで高画質化になるかは微妙なトコでしょうけど、なんと今回はアッコちゃん本人をはじめとする副音声も付くんだとか。これはもう、ビデオもDVDも持っていても永久保存として、やっぱりコレクションしておきたい感じです。

 まず1枚目は84年の「オーエスオーエス Live 1984」。同年6月に東京・渋谷公会堂で行われた同名のニューアルバム発表ライブです。
 ユニークだったバッキングには、アッコちゃんライブではおなじみの面々が勢ぞろい。散開後のYMO、キョージュ、ユキヒロとくればホソノさん、といきたいところですが、体力の限界ということでホソノさんはテープでの参加でした。それにしてもまさに丁々発止、音楽の綱引き。イトイさんじゃなくても「アッコちゃん、ばんがってぇ。」と声援を送りたい感じです。叫んだ後は、超名曲「GREENFIELDS」に涙してください。
 今は亡き大村憲司さんや、吉川忠英さん、浜口茂外也さんとうなるメンバーの若き姿や、皆さんでの影絵にも注目ですが、やっぱり見逃せないのが立花ハジメさんの舞台美術。アッコちゃんのお眼鏡にかない、その後のアートワークはおまかせ、という存在になりますが、これが初起用だったとか。象徴的なぼんぼりのセットは、今見ると現代アートの趣です。
 ハジメさんといえば、プラスチックスやソロでのミュージシャン活動、ルックスを生かしたファッションモデルとかでも知られますが、我々のようなスノッブなヤングにとっては、とにかく憧れのクリエイターでしたよね。

 なお、ビデオは84年当時に徳間ジャパンから発売されましたが、1万超えという高額で我々高校生ファンには手が届きませんでした。ワタシが入手したのはその後、所属事務所であり原盤権を持つやのミュージックから通販された廉価版(といっても1万円近かった)のLD。
 ちなみにDVD化されたのは2000年代に入ってから。後の2作品とともにポニーキャニオンから単品&セットという形で二度発売されております。

 続いては2枚目、オリジナルはソニー(CBS・ソニーではなくソニー)からの発売だった「BROOCH(ブロウチ)」。これは、やのミュージックの通販限定、ハジメさんのアートワークも素晴らしい同名のシングル4枚セットに端を発する企画で、85年12月に日本青年館で行われたお洒落なライブです。
 レコード同様、ドビュッシー、ラヴェル、ストラヴィンスキー、シューベルトなど、クラシック歌曲の小品を高橋悠治さんのピアノをバックに英語で独唱したものがメインとなっています。我々世代なら推薦図書できっと読んだ岡真史詩集「ぼくは12歳」や、谷川俊太郎さんの詩に悠治さんが曲をつけた日本語作品も含まれますが、とにかく歌い手としての気品と、衣装やヘアメイクを含めアッコちゃんの美しさが堪能できるビデオです。「WATER WAYS FLOW BACKWARD AGAIN」でのキョージュとの連弾と、本編ラストの「おぼろづきよ」がオススメ。おニャン子クラブ全盛期のためか「わたしのにゃんこ」の♪オーにゃんこが変わっています。

 当時のアッコちゃんの専属といえば、聖子もやってた嶋田ちあきさんだったはずですが、「ごはんができたよ」のスッピンかあさま顔を知ってるファンにとっては、あの華麗な変身はビックリするほど。太って見えるんでイタリアのオペラ歌手みたいな感じもありますが…。モニターや金魚鉢をチョイスしたハジメさんのアートなセッティングも素敵です。こういうライブがきっちりパッケージとして残っているのがウレシイ。

 そういえばレコードの「BROOCH」が86年にCD化された際、やのミュージックから限定販売だったのに一般発売してゴメンナサイというハガキが送られてきましたが、その配慮にもカンドーしたものでした。レコード制作と流通のあり方などにも疑問を投げかけていたアッコちゃんですから、ミディに移って以降も自主制作盤が多かったんですよね。そういうのもあって、やのミュージックからのDMはほかのアーティストに比べ格段に多かった気がします。
 あと当時は、アッコちゃんって雑誌露出も極端に少ないし、アーティスト情報を入手する機会が少なかったんですが、よく往復ハガキを使ってやのミュージックにあれこれと問い合わせしていました。手紙好きのアッコちゃんをまねていたというのもありますが、あそこってば、いつもきっちりお答えしてくれてとても親切だったのです。

 そして3枚目は、やのミュージック初の自主制作ビデオ「出前コンサート」。大規模なコンサートツアーのあり方に疑問を感じていたアッコちゃんに、イトイさんがアドバイスして始まった、小さなホールでのピアノ弾き語りライブを映像化したビデオです。確か、家庭の事情でアッコちゃんが休業を決め(引退騒動に発展しました)、出前もいったん終了するのに合わせて発売されたんじゃなかったかと記憶してます。
 出前は全国津々浦々、文字通りリクエストのあった場所へ、ピアノさえあるならば体ひとつで出向くというスタイルのライブ。それも基本的に若向けのアーティストなんか絶対に来ないようなへき地が中心であり、中高生メインだから健全に昼間開催、という前代未聞のコンサートでしたが、ここでは87年5月に長野県松本市と伊那市で行われた出前を収録。この時代ならでは、アッコちゃんの眉毛やソバージュの量もすごいですが、ハジメさんの万華鏡のような、当時としては画期的な処理がとてもお洒落で、映像自体は素朴なシーンを切り取っているはずだのに、とてもアートな空気感が漂う映像作品に仕上がっています。

 当時の新曲で杉浦幸も同時期にシングル化したグリコ協同乳業のCMソング「花のように」や、みんなのうた「ふりむけばカエル」、はっぴいえんど、YMOのカバー「夏なんです」「東風」もいいですが、おなじみの「青い山脈」や、ファン人気No.1で一般にも清水ミチコのモノマネでも知られる「ひとつだけ」がオススメ。日立のCMソング「てはつたえる→てつだえる」、プロデュースしたかしぶち哲郎のアルバム曲「LISTEN TO ME, NOW」、初期の作品で銀河テレビ小説の主題歌にもなった「HELLO THERE」などレア曲も満載です。
 なお、副音声には、ツイッターでも呼びかけのあったこの出前の参加者5名も入っているそうです。今回、ぜひイトイさんとアッコちゃんの対談などを収めたブックレットも復刻されればいいなあ。「ダイアモンドとタクワンひと切れ同じだ」という価値観についてのお話は、大きな指針になったものです。

 余談ですが、ワタシの出前初体験は受験生だった85年、地元からもさらに離れた田舎、当時は電車と国鉄バスを乗り継いで1時間半ほどもかかった場所での開催でした。実は当初の開催日が台風で延期になり、友人と2人、模試をバックレてまで出かけたのでした。
 地元の青年団が主催で、チケットも手書きの手作り、舞台のセットも手作りの書き割り、公民館の板の間に、おそらく近隣の民家から拝借したであろう座布団に座って拝見いたしましたけれど、アッコちゃんのほんわか路線が極まったステージでした。
 この時は終了後、帰りの時間まではサイン会みたいになって、かの永田どんべえさんとアッコちゃんとお話したり、2ショット写真まで撮らせていただいたのですが、果たしてあの写真はいずこに…。

 最後は、オマケではありますが初商品化となる「峠のわが家 Clips」。名作と誉れ高い86年のミディ第1弾アルバム「峠のわが家」から、PV用に制作された「そこのアイロンに告ぐ」「Home Sweet Home」というクリップ2曲です。
 そういえばジャケットにも使用されたパステルカラーのアンサンブルニットは、エミスフェールのものではないかとにらんでおりますが、グレース・ケリーを意識したのだとか。それを60年代の古き良きアメリカ的家族コミュニティの崩壊をなぞらえたり、タイトルを幸せの峠を越えたわが家だと解釈すれば「Home Sweet Home」もまた別の味わいをもって鑑賞できそうです。

 この後、家族を大切にするために渡米して、今では家族と離れてニューヨークで暮らすアッコちゃんのことと、自分の暮らしの移り変わりを思うと、25年の歳月はあっという間に思えても、やっぱりいろんな出来事があって実に長かったなあと思います。

 なんだか懐かしさだけでなく、いろんなことを考えそうな今回のブルーレイBOX。個人的には、昔ビデオやLDのパッケージを持っていたのですが、遊ぶ金欲しさに売り払ってしまったもので、ブルーレイでそろえ直す絶好の機会ととらえております。
 ホント「わたしの宝、みんなの宝、やのあきこ。」ですからね。

(2012.6.14)


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